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宿敵・マリオ出現!危うしバタピー刑事!!(後編)
真っ赤な顔で息を切らせて走ってきたドンチャック刑事がそこで見たのは、
あの時―――ピーナッツが凶弾に倒れた時―――と同じ光景だった。
「ば、バタピー!」
胸を押さえてよろめくバタピー刑事を抱きとめるドンチャック。
「だめだ、君は死んじゃいけないんだ。君まで失ったら僕は生きていけないよ、バタピー!」
(ふっ、とんだ愁傷場だな。だがこれで手間は省けた。死んでもらうぜ!)
ヒットマン・マリオが背後でもう一度狙いを定めたことを、ドンチャックは知らない。
引き金に力を込めるマリオ。
と、そのとき、ドンチャックの背中のエンジェルリュックが、強烈な光を放った。
(うっ)
目が眩んだマリオは思わず銃を落とした。その気配にふと振り向いたドンチャックの顔は、
リュックの光を浴びて燦然と輝いていた。
端正な顔だち、つぶらな瞳、自分と同じ濃い口髭。
(OH MY GOD!!!…こ、こんな人がいるなんて!)
その途端マリオは、自分の任務をきれいさっぱり忘れた。ヒットマンであることも忘れた。
なにか清々しい気持ちになりながら、彼は鼻唄混じりにその場を後にした。
一方、ドンチャックはまだバタピーをしっかりその胸に抱いて泣きじゃくっていた。
リュックが彼を守ってくれたことなど知る由もない。完全に自分の世界にいる。
「ごめん、ごめんよバタピー。僕を立ち直らせてくれたのは君だったのに…お願いだ、
彼を連れていかないでくれよピーナッツ!僕には彼が必要なんだ!」
「…あの、ドンチャック刑事、もう放してくれませんか。息が苦しくて」
「ええっ?あっ!バタピー、君生きてるのかい?生きてるんだね?」
「防弾チョッキを着ていたんです、念のため。兄の二の舞にはなりたくなかったですから」
「そうなのか!よかった!ほんとによかったよ!」
あまりの嬉しさに一層腕に力をこめて彼を抱きしめるドンチャックだった。
…バタピー刑事がこの「感動の抱擁」から解放されるには、キューピーとファイアーの
遅い到着を待たねばならない。
「お、ようやく見つけたよバタピー。大丈夫かい?」
「無事で何よりだったよ。…まったく、ファイアーったら何度迷ったら分かるんだい。
ここはいつから君の所轄なんだ?」
翌日、ドンチャック刑事は、人生最良の時といった風情で出勤してきた。
髪もさっぱりカットしてある。
「おやドンチャック、散髪してきたのかい?」
「そうなんだ、下の店に新しい理髪師がいてね、彼がとっても上手なんだ。しかも今回は
タダでいいって言うのさ。また来てもらいたいからって。ファイアーも行けばいいよ」
その理髪師の名はマリオという。
こののちドンチャックお抱えの理髪師になる彼の過去は誰も知らない。
そう、本人さえも。
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