:: BACK ::

ビスケットとメープルシロップ

Written by 黒とかげさん

ある日、Johnは、珍しくケンラッキーフライドチキンのお店に入り、窓際の席で、頼んだセットを一人食べていた。
その中には、この店の特徴メニュー、ビスケットも含まれていた。
Johnは、そのビスケットを何の根拠もなく、最後に食べることに決めた。
そして、チキンもポテトもサラダも食べ終わり、いよいよビスケットを食べる番になった。
「あれ〜?Johnだ、めずらしいね。ケンラッキーの食べるなんて」

ケンラッキーの窓際の席で、それをおいしそうに頬張るJohnを、外からガラス越しに見つけたFreddie。
冷やかし半分で店の中に入る。
と、
「いらっしゃいませ」
マニュアル通りににっこりスマイルで挨拶する、店員さん。
『お客じゃないよ』という意味で手をひらひらさせながらFreddieは、
まっすぐJohnの席へと向かった。
そして、ビスケットに手を伸ばそうとしていたJohnに、声をかけたのである。

「・・・ん?Freddie、どうして君がここに・・・?」
あわてるJohn。
「いや、偶然だよ。ちょっと息抜きにショッピング。
それよりも、John、ケンラッキー好きだったっけ?」
自分のことは、早口で説明して片づけ、更に相手に質問するFreddie。
「よっ」
と許しを請うことなく、Johnのテーブルを挟んで前の椅子に座り落ち着いた。
「ベェロニカがテイクアウトしてきたケンラッキーを、子供が本当においしそうに食べてたから。
どんな感じなのかな・・・?と思ってねえ」
Johnが正直に答える。
「そっか、なるほど。
知らないと、話の輪に入れないからねぇ」
Freddieは、納得した。
そして、
「僕のことは気にせず食事の続きして」
と勧める。
「じゃ、失礼して」
Johnは、Freddieが来たことによって中断された、最後のお楽しみのビスケットを手に取った。
まず、ビスケットを半分に割り、ついてくるメープルシロップの、袋の一部を手で切り取り、
少しずつ少しず中身を絞り出してつけながら、そのスコーンに似た物体を、食べてゆく。
それを頬杖をついて見守るFreddie。
そんな彼を、意識しつつ・・・表面上は、反対の素振りを見せながら、Johnは、ビスケットを食していった。
「・・・っと・・・」
たまにその栗色の長い髪が垂れて、ビスケットに触れそうになる。
が、間一髪、ビスケットを離して、メープルシロップが、
その柔らかで触り心地の良さそうな髪につき、べたべたになるのをくい止めた。
そして、Johnは、半分に割ったビスケットの片方が食べ終わりもう一つの方も二分の一程度消化したところで、
まだメープルシロップがたくさん残っていることに気づいた。
「もったいない」
じっと左手に持ったメープルシロップの袋を見つめ、重みとふくらみを感じながら、つぶやいた、John。
「もったいないから、みんな使ってしまおう」
そう言って、先程の、ちびちび出しではない、ビスケットからたれ落ちるほど、メープルシロップをつけ始めた。
事実、メープルシロップは、ビスケットから指へと伝い、
更に、食事をしていて汚さないようにとシャツをまくり上げている為に露出した、
その白い腕にも、ゆっくり流れてゆく。
「ジョン、垂れてるよ」
ジョンがいくらそのハニー色の、とろりとした液体が腕に小川のようなラインが出来ても、
いっこうに気にすることなくビスケットを食べているので、
見かねたFreddieが教えてあげた。
すると・・・。
ぺろり・・・。
Johnは、いきなり、自分の手や指や腕に垂れた、メープルシロップをなめ始めた。
大量にメープルシロップがつけられたビスケットが、その手に持たれているので、どんどん液体が垂れていく。
Johnは、それさえもったいないと言わんばかりに、自分の腕に唇を這わせた。
「・・・John・・・その・・・う゛っと・・・ここ店内なんだから、あまりそういうことがしない方が・・・」
その様子を一部始終釘付けになって観ていたFreddie。
特に口のあたり。。。
ちらちらとのぞく赤い舌にドキドキしながらも、理性は何とか残っていて、このままでは自分がどうにかなってしまいそうなので、
思わず注意する。
『やばい。
このままじゃ、Johnを・・・Johnを・・・』
Freddieは、Johnとの友情を壊したくなかった。
「・・・」
Johnが、自分の腕にキスをしたまま、Freddieの目を見る。
なんだか、その目がいつもと違う輝きをしているように思えた。
見つめあう、二人。
が。
「あっ、ごめん。でも、やっぱりもったいないから」
Johnは、Freddieの言葉を聞き入れなかった。
再びビスケットを食べ始めたものの、流れ落ちたメープルシロップを口で舌で舐めとるのを止めようとしない。
そして、
「ごちそうさまでした」
やっとJohnがビスケットを食べ終わった。
舐めとってはみたものの、それでもべたべたしている手や腕を、無料のお手ふきで拭く。
・・・Johnが食べ終わるまで、まさに、Freddieにしてみれば、襲いたくても襲えない、蛇の生殺し状態で・・・。
そんなFreddieの心中などお構いなし。
何事もなかったかのように、
お手ふきで、メープルシロップのべたべたを拭いながら、世間話を始めたJohnに、
Freddieが怒りを覚えるのも至極当然な話で。
「Johnの馬鹿。そんなの見せられたら、僕・・・僕・・・」
がたんと勢いよく椅子から立ち上がったFreddieは、俯き、わなわなとテーブルについた手を、腕を・・・肩を振るわせながら、Johnに言った。
「君とは、友達だから。。。同じバンドの仲間だから。。。失いたくないから。。。
君を大切にしたいから。。。だから。。。」
「んっ?どうしたんだい?Freddie。コーヒーぬるくなってしまったけれど、飲むかい?」
しかし、当の本人は、至ってのんきである。
半分の見かけのコーヒーを、Freddieの前にそっと置いた。
「・・・いらないよ。
ごめん。これ以上一緒にいると、君を襲ってしまいそうだから、僕、帰る・・・」
Freddieは、コーヒーを無視して、そう言い残し、俯いたままケンラッキーの店を早足で出ていった。
そんなFreddieを引き留めることなく、見送るJohn。
店内のJohnを観ることなく、外の通りを足早に去っていくFreddieをウインドー越しに目で追いながら、
ぺろっと拭き忘れた箇所を舌で舐めて、彼は、ぽつりと呟いた。
「・・・襲ってくれれば、いいのに・・・」

(完)

「ペロペロ」へ ←クリックして砂丘さんのイラストもご覧下さい★

:: BACK ::