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ゴールドフィンチの歌

Written by えるてさん

ある所に、赤い顔をした鳥がいました。

その鳥のおしゃべりをする時の声は、ちょっと変わっていたので
仲間の鳥たちから、しょっちゅう冷やかされていました。
「どうして、お前の声はそんなに甲高いんだ。
おまけに早口で何を言ってるのか分かりゃしない。」

そんなわけで、鳥はいつしか仲間と話をしなくなり、
みんながいない所で時間を過ごすことが多くなりました。
少し寂しいけれど、悲しい気持ちになる事はもうありません。

ただ、いつも心配して声をかけてくれるあの娘に会えないのが心残りでした。
日に日に恋しい気持ちが募ってきます。



ある日、草むらで虫をついばんでいると  
何処かからとても美しい音色が聞こえてきました。
音のする方に歩いていくと、コウロギがころころと楽しげに歌っています。
美しい声にうっとりと聞き入っていると、急に音が止みました。
「助けてー、食べないでー」鳥に気がついたコウロギは大慌で逃げ出しました。
「違うよ、待って!逃げないで。君の歌を聞いていただけなんだよ〜。」

追いかけてくるあまりに情けない声に、逃げていたコウロギは足を止めました。
「僕の歌を聞いていたって?」
「そうだよ。あんまり綺麗な声だったから!・・・食べたりなんかしないから
心配しないで。」
人の良さそうな笑顔に安心したのと、
自分の声を褒められて嬉しくなったコウロギは、
ちょっとこの鳥と話をしてみることにしました。

「君は、歌が好きなのかい?」
「うん、大好きさ。特に美しい声の持ち主の歌を聞くのがね。僕は歌えないから・・・」
「まさか!鳥が歌えないなんて、そんな事あるものか。」
「本当だよ。僕の声はとても変だろ、みんなも馬鹿にするし・・・」
コウロギはふんふんと、うなずきました。
「なんだ。歌えないんじゃなくて、歌わないだけなんだ。」
そして、おどけたようにクルッと体を回転させて鳥に笑いかけました。
「慣れれば誰だって歌えるものさ。下手だって心がこもっていたらそれでいいんだよ。」


それを聞いて鳥は少し元気が出てきました。

「勇気を出して・・・歌ってみるよ!
いつも親切にしてくれる女の子が村にいるんだ。僕の作った歌を彼女に送りたいんだ。」
コウロギはニヤニヤしながら言いました。
「君はその女の子の事が好きなんだね」
鳥の赤い顔はもっと真っ赤になりました。


この恥ずかしがり屋の鳥の求愛の歌が少しでもうまくいくようにと、
コウロギは簡単な歌のレッスンをすることにしました。
やり慣れないことをして鳥はぜーぜー息を切らしています。

あれやこれやで小一時間。

「僕はもう行かなきゃいけないけど、ちゃんと練習してがんばるんだよ。
君ならできるさ。」
軽くウインクしてコウロギは去っていきました。
急に心細くなりましたが、親切にしてくれたコウロギのレッスンを
忘れないように早速練習を始めました。


しばらくたった、ある晴れた日。
村にいる女の子の家を訪ねる決心をして彼は飛び立ちました。
空は青く澄み渡っています。


「君に伝えたいことがあるんだ。ついて来てくれるかい?」
久しぶりに会った彼に驚きつつも、女の子は喜んで一緒に村の東にある丘に行きました。
「僕の歌を聞いてくれないか?君のために作ったんだ。」
数回深呼吸をして、彼はゆっくりと歌い始めました。


ふわりと温かい声があたりに響き渡り丘を越えてゆきます。

彼女の目から涙がこぼれ落ちました。



それから数日のうちに噂が村に広がりました。
村の東の丘に行くと
今まで聴いたことが無い美しい歌を聞くことができる。
少しだけ鼻にかかった甘い歌声で・・・・・と。


でも、噂を聞いて何人もの村人が行ってみたのですが、
あれ以来二度とその歌を聴いた者はいませんでした。


あの歌は、

今は、ただ一人のために歌われているのです。


おしまい。


*ゴールドフィンチ(Goldfinch)  和名ゴシキヒワ
顔の真ん中が真っ赤なイギリスの留鳥。
テンポよく明るい鈴を転がすような美しい声で鳴く。と言われている。

(編注:ジョンの個人プロダクションの名前は「Goldfinch Production」といいます)

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