:: BACK ::

「メイ探偵ホームズ」第1話『ボヘミアの醜聞 〜ボヘミアン・ラプソディ&スキャンダル〜』

Written by Yukari

≪ホームズ未体験の方のために強制投獄解説≫
サー・アーサー・コナン・ドイル(1857〜1930)による
ファンでなくとも誰もがなんとなく名前だけは知っている名探偵「ホームズ」。
本当に初めて世に出たホームズ物は
「緋色の研究」(原題 ”A STUDY IN SCARLET”1887年)
という長編だったが、いまいち売れず。
その後「ストランド・マガジン」という大衆雑誌に
短編を連載し始めてから、爆発的人気を博する。
その、記念すべき短編第1話目が、1891年発表の
「ボヘミアの醜聞」(原題 ”A SCANDAL IN BOHEMIA”)。
「スキャンダル」…しかも、あ、あろう事か「ボヘミア」…
この言葉を聞いて、クイーンファンが黙っておられますかっ
(↑この人は病気ですから放っておいてください)

しかも…キャスティングを考えてみたらハマりまくった…

≪キャスト≫
シャーロック・ホームズ → ブライアン・メイ
 長身、細長い指、虚弱体質ぽいくせに仕事してると疲れ知らず
 常識ばなれ(笑)、食事や睡眠を平気ですっ飛ばす、
 音楽好き(原作ではヴァイオリンの名手)、理数の天才、
 こだわり屋、完璧主義、止まらないうんちく、等々…
 よく考えるとソックリなところがあり過ぎ…
 しかし最大の課題は、結論を早く出し、俊敏に動く事…
 髪型はブライアンのまま押し通します!(笑)

ジョン・H・ワトスン  → ジョン・ディーコン
 「ジョン」という名前だけでワトスンに確定されてしまった
 ディーコンさん。
 しかし…ホームズに比べまったく「フツーの人」で
 控えめな補佐役だけれども、いざというところでは
 的確に急所を突くというキャラ…そのままやん…
 あたたかいようでいて時には容赦なくクール(笑)。
 ともすると壊れかかるホームズを冷静に見つめ
 自分はしっかり現実でふんばってるってところも
 現実のQ事情とダブりまくって笑える…
 貴公子でも「久米」でもボンバーでもお好みで!
 はっきり言って(影の)主役。

アイリーン・アドラー  → フレディ・マーキュリー
 才色兼備で性別不祥な妖艶フェロモンをふりまき
 周囲を魅了しまくる、威風堂々たるオペラのプリマドンナ…
 ハ、ハマり過ぎだっつの…
 長髪美人時代のフレディ!ヴィクトリアンなフレディ!
 ヒ、ヒゲはナシで…(笑)

ボヘミア王       → ロジャー・テイラー
 これまたハマッたな…女たらし具合がまんまかと(笑)。
 彼に貴族ができるかどうかは置いといて…
 短髪ダテ男になってからのヴィジュアルがいいかも。
 残念ながら、この時代サングラスはありません(笑)。

それでは、霧とガス灯と石畳に響く馬車の音、19世紀末
ヴィクトリア朝のロンドン(のはず)へ貴方をご招待…

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(ロンドン、ベーカー街221のB、ホームズの部屋にて)

ワトスン :やあ、ホームズ、久しぶりだね!
       往診の帰りにちょっと通りかかったんだが
       古巣のドアを見たら、たまらなくなって来てしまったよ。
       それに、きみの最近の活躍はすばらしい。
       新聞でしか知らないのが惜しいけどね。
ホームズ :(うれしいくせに、ろくすっぽ挨拶もせず
       シガレット・ケースをぽいっと投げてよこし
       酒のありかを指で示す)
       ワトスン。結婚生活はきみに向いているようだね。
       この前会った時より7ポンド半は太ったろう?
ワトスン :7ポンドだよ!
ホームズ :そうか、もうちょっと考えてから言うんだったね。
       子供は10人だっけ?
ワトスン :それこそ、もうちょっとでも考えてから言いたまえよ。
      まだ結婚したばっかりなのに
      どうやったらそんなに生まれるんだよ!?
      まあ、将来的に、たくさんいたらいいなとは思うけどね。
       そう言うきみは結婚しないのか。
ホームズ :フッ(冷めた笑い)恋愛なんて、ぼくには邪魔なだけだね。
       (どの口が言うか ←メイさん江)
ワトスン :確かに、きみは冷静な推理の機械みたいなものだから
       そんなきみがもし恋なんかに落ちてしまったら
       精密機械に砂粒が入ったとか
       レッド・スペシャルの弦が全部一気に切れた
       とかいう事より、もっと大変だね。
ホームズ :ふふっ、きみもなかなかぼくの事をよくわかってるじゃないかv
       それよりワトスン、きみは、こいつをどう思う?
       (手紙をぽいっと投げてよこす)
ワトスン :どうって…ただの手紙のようだが…なになに?
       「今夜8時15分前、極めて重大な用件を
       ご相談したい者が、あなたをお訪ねします。なにとぞ
        そのお時間、お部屋にいらしてくださいますよう。また
        こちらが覆面をしておりましても、ご容赦ください」
       …こ、こっ、ここ、これは……思いっきり
       ストーカーなんじゃ…しかもなんだか変態ちっくだよ?
ホームズ :まあ、万が一そうでも、ぼくには
       スコットランド・ヤード(警察本庁)がついてるからな。
ワトスン :そういう問題でもない気が…
       で、きみは、この手紙をどう思うんだい?
ホームズ :まず、その手紙からは、少なくとも、それを書いた人物が
       相当な金持ちで、しかも気前がいいという事がわかる。
      あるいは、ただハデ好きで見栄っ張りなだけかも
      しれないけどね。ずいぶん高級な紙だ。それに
      すかし文字で”Gt”と”P”と”Eg”というのが入っているが
      これはドイツ語の「ゲゼルシャフト」で「会社」。
      それから「パピール」で「紙」。
      それから地名の「エグリア」の略さ。そこは
      ボヘミア(チェコ西部)のドイツ語が話される地方の都市で
      ガラス工芸と製紙業が盛んだそうだ。
      ぼくの地名事典によるとね。
      (このノンストップうんちくが真剣にそっくりなんだよな…)
ワトスン :へえ!それじゃあ、この手紙を書いた人物は
       ドイツ語を使うボヘミア人ってわけかい?
ホームズ:その通り。文章におかしなところがあったろう?
       動詞をいちばん最後に持ってきている。
       そんな事をするのはドイツ語か日本語ぐらいのもんだ。
       あ、日本語は好きだけどね。
       それからこの人物は、非常にリズムやテンポを大事にする
       人間だという事もわかる。
ワトスン :そ、そんな事までわかるの…?
ホームズ:筆圧や筆跡の問題さ。そしてあとは
      その覆面をしてやって来ると言う紳士が
       いったいぼくにどんな用事があるのかって事だが…
       そう言ってる間に本人が来たようだ。

(外の石畳に馬車の走る音が響いてくる)

ホームズ:(ぴくっと耳をすませて)
       おやおや、ずいぶんスピード狂だな。
       この音は2頭立てだね。
ワトスン :(窓から外をのぞいて)
       当たりだよ。きみの耳はさすがだな。
ホームズ:(いっしょにのぞいて)
       馬も立派だぞ。やっぱり金かけてるなあ。
       見栄っ張りでハデ好きなのも当たりだね。ともかく
       この事件は、お金に関してだけは大きそうだな。
ワトスン :ぼくは帰った方がいいんだろうね?(そ、そっくり…)
ホームズ:いや、いや。ぼくにはきみが必要なのさv
       ぼくに必要だって事は、依頼人にとっても
      必要だって事になる。(その強引さもそっくりだ)
       さあ、そこのひじかけイスに座って。
      できるだけ堂々としててくれよ。

(ドアにノックがあり、ホームズが返事をすると、ガチャリとひらく。
 マントにブーツ、脳天からつま先まできらっきらの
 堂々たる貴族が入って来る。目だけサングラ…じゃなかった
 覆面でかくしている)

覆面野郎 :手紙は届きましたろうな?この時間、お訪ねすると
       書いておいたはずですが…?
ホームズ :どうぞ、おかけください。
       こちらは友人のドクター・ワトスン。
       ときどき事件を手伝ってくれる仲間です。
       で、あなたは、どなたですか?
覆面野郎 :シアー=ハートアタック伯爵と呼んでいただきたい。
       失礼ながら、その紳士は、極めて重大な事を話しても
       構わぬ、分別のある、信頼できる方でしょうな?
ワトスン  :(立ち上がって、微笑をたたえつつ
        さりげなくフェイドアウトしようとする)
ホームズ :(がしっっ、と手首をつかまえるv)
       2人でお話をうかがうのでなければ、お断りします。
       (きゃーv ←発作)
       私にお話しになる事であれば、この紳士に話しても
       さしつかえはありません。
覆面野郎 :…いいでしょう。
       私のこの覆面については、お許し願いたい。
       私にこの役目を言いつけた方から
       顔をかくすようにと言われたからなのです。
       それに、先ほど申した名前も
       実を言うと本当のものではないのです。
ホームズ :それは、わかっておりました。
      (ひじかけイスの上で、両手の細長い指先をつき合わせ
       目をとじ、だるっそーにしている)
ワトスン  :どうしたんだい、ホームズ?もう疲れたのか?
ホームズ :ワトスンは黙ってっ
覆面野郎 :ある王室の名誉を、スキャンダルから守りたいのです。
        はっきり申せば、ボヘミア国王室
       レディオ=ガ=ガ家の存亡にかかわる事なのです。
ホームズ :それも、わかっておりました。
       (やっぱり、だるっそーにしている)
覆面野郎 :(キレかける)やる気あんのかお前?!
ホームズ :陛下が、ご自分の事としてお話しくだされば
       わたくしも、もっとお力になれるのですが。
覆面野郎 :(ハッと息をのみ、しばらく固まっている。
        正確なリズムでイライラと歩きだす。
        そして立ち止まり、覆面をむしり取って
       バンッッと床にたたきつけ、振り向く)
        その通り! いかにも、我輩がボヘミア王だ!
ワトスン :(心底たまげて、ガタアッとあわてて起立する)
ボヘミア王:(人さし指で「座ってよし」の合図をしながら)
       ったく〜、シマらね〜な。(覆面と同時に威厳も脱げた)
       オレはなんでそれをかくそうとなんて
       しちまったんだろ〜な?
ホームズ :まったく、どうしてでしょうな。(皮肉たっぷり)
ボヘミア王:けどよお…じゃなかった、あー、ウォッホン
       だがしかし(言い直しても手遅れ)
        きみもわかってくれるであろう。
       代理の者に頼んで弱みをにぎられるわけにもいかんから
       自分自身でやらなければならん。
       すると、どうしても正体はかくしておきたくなる。
ホームズ :なるほど。妙なところで苦労性ですなあ…
       それで?陛下の、今回のご相談の内容とは?
ボヘミア王:それなんだけどよ(油断するとすぐ戻る)
       オレはもうすぐ結婚するんだよ。
       本当は結婚なんてしたくないんだけどな。(本音)
       オレは結婚不信論者なんだよ。
        けどよ、いち王室の主がいつまでも
       フラフラしてるわけにもいかね〜からな。
       相手はスカンジナビア王室のかわいこちゃ…おっと
       あー、ゴホン、うるわしい姫なのだが(手遅れだって)
       あそこの王家は家風が厳しいんだな、これがまた!
       門限9時なんて、やってられっかっつーの。
ホームズ :あー、陛下は、ずいぶんと貴族らしからぬ
       お気楽な方のようですな…
        それで、そのお話から察するに、今回のご相談内容は
       陛下の過去の女性問題にかんする事ですかな?
ボヘミア王:そのと〜り!
       オレは5年ほど前、ワルシャワに滞在してた時
       アイリーン・アドラーって女と知り合いになったんだ。
        とびきり美人だけど、頭脳明晰でしたたかな妖婦だぜ。
       この女は有名だから、あんたも知ってるだろ?
ホームズ :はて、ワトスン、ぼくの人物索引で調べてくれないか。
ワトスン  :よし来た。
       (本棚からホームズ自作のスクラップブックを取り出す)
       ああ、あったよ。
ホームズ :どれどれ。(目を通す)
       1846年、イギリス領、ザンジバル生まれ。
       インドで幼少期を過ごし、その後イギリス本土へ。
       オペラ歌手、スカラ座出演。ほう!
       ワルシャワ王室オペラのプリマドンナ。ほう!
       オペラの世界を引退後、現在はロンドンに住む…
       なるほど。
       それで、陛下がこの女性と交際があったという証拠を
       なにかお残しになった?
ボヘミア王:そ〜なんだよ。当時、その女と2人でさ
       並んで写真を撮っちまったんだな。
ホームズ :服は着ているんでしょうな…
ボヘミア王:着てるよっ!けどな、オレは片手を彼女の肩に回して
       もう片っぽうの手はつないじゃってんだよな〜
ホームズ :それはいけませんな。
       陛下は、まったく軽はずみな事をなさいましたね。
       (あなたに言われたくない ←メイさん江)
ボヘミア王:オレもまだ若かったんだよ。
       (若さのせいだけじゃないだろう ←テイラーさん江)
       まだ皇太子だったからな。
       アドラーは、オレの心変わりを知ると
       その写真を相手の王室に送ると言ってきた。
       しかも、婚約発表の当日に送ると来たもんだ。
       まったく、たいした趣味だぜ。
       (なんでこう庶民的かな…)
ホームズ :婚約発表とは、いつなのですか?
ボヘミア王:それが、あと3日後なんだ。
ホームズ :(あくびしながら)なんだ、あと3日もあるんですか。
ボヘミア王:へえ、ずいぶんと自信があんだな。
       オレが今までどんな手を尽くしてもだめだったんだぜ。
ホームズ :陛下は女の扱いというものをご存知ない。
       (それもあなたに言われたくない ←メイさん江)
       まあ、わたくしにお任せください。
       きっと満足行く結果にしてご覧に入れますよ。
ボヘミア王:なんか現実味を帯びて聞こえねえんだよな…
       本当に大丈夫なんだろうな?!
       スキャンダルだけは、マジでごめんなんだ。
       噂はすぐに広まって、オレたちの生活は
       面白おかしい見世物に変えられちまうんだ。
       世界中がオレらを笑いものにするかもしれねえし
       悪いニュースが堰を切って流れ出し
       オレらは血を流すような思いをするんだぜ。
       オレらをじろじろ見る連中には
       プライヴァシーに立ち入るなと言ってやりたいね。
       頼むからやめてくれと叫んでやりたいよ。
       何度も、何度も、いやになるほどな。
ホームズ :(真顔になっちゃって神妙に聞き入っている)
       まるで自分の事のように、お気持ちはお察しできます。
ボヘミア王:へっ、同情はいらないぜ。
       (いや、同情じゃなくて実際に…バキッ←長い足の裏)
ホームズ :しかし…陛下の場合”プライヴァシー”というよりも
       いち王室の婚礼問題なのですから
       政治的問題なような気が…
       それに、身から出たサビな部分も…
ボヘミア王:なにいっ?!(眉間にシワよせてギンッとにらむ)
ワトスン  :まあまあ、陛下。
       こんなカスミ食って生きてるような探偵は放っといて。
       なにがどんな事情でどんな結果になろうと
       それは現実…現実からは逃げられません。
       真実だけに向かい合って、対処法を考えなければ。
ボヘミア王:い、息の根が止まりそうなぐらい現実的だな、あんた…
ワトスン  :(至っておだやかな笑顔で)おほめにあずかりまして。
ホームズ :(あーあー、またわかってないよ、こいつ…↑と思いつつ)
       とにかく、全力は尽くさせていただきます。
ワトスン  :当たり前だよ、ホームズ。
       きみだって、事件解決に失敗すれば
       立派なスキャンダルにされるんだからね。
ホームズ :(本当に息の根が止まった)
       が…頑張ります…
ボヘミア王:頼むぜ、名(メイ)探偵さんよ。


翌日の夜。アイリーン・アドラー邸 「ブライオニ荘」の前

(アドラーを乗せた馬車が、門の前で停まる)

アドラー  :ありがとうv (御者に心づけ&投げキスvを渡しながら
       馬車を降りようとする)なんだか今夜は人が多いのね…
浮浪者  :(馬車のドアをあけてやろうとする)
       どうぞ、マダム!あっしがドアをおあけしやすよ!

(しかしそこへ、また別の浮浪者が現れ
ドアをあける事によるチップを目当てに、横取りしようとする。
ケンカになる浮浪者たち。そこへ通りすがりの近衛兵たち、
ハサミとぎの男などが両サイドにつき、どエライ乱闘騒ぎに発展)

アドラー  :まあ、ちょっと、あなたたち、お気持ちはうれしいけど
       やめてちょうだい!あぶないわ。
老牧師  :ほれほれ、お前さんたち、やめないか!
       ご婦人が困っとるじゃないか…ああっ!
       (浮浪者の放ったパンチが顔面にクリーンヒット。
       流血。K.O.地面にのびてしまう)
乱闘組  :うわっ、やべえ、逃げろ!
アドラー :まあ、いけないわ!(野次馬たちをせかして)
       さあ、早く、家の中へお運びしてちょうだい!

(ブライオニ荘、居間)

老牧師 :(ソファに寝かされている。
      長身すぎてちょっとはみ出し気味)ああ…うう…
アドラー :あっ、お目覚めになりまして?
老牧師 :息が苦しい…窓を…窓を、あけてください。
アドラー :(窓を全開にしながら)まあ、牧師さまったら
      見られていた方が盛り上がるタイプ?
老牧師 :えっ?!(さすがにガバッと頭を上げる)
アドラー :いけませんわ!おケガをなさっているのに!
      (がしっっ 掌握)と言うか、逃がしませんわよv
老牧師 :はっ…?
アドラー :いえ、いえ。なんでもございません。
      牧師さま、たいへん勇敢でしたわ。
      あたくしを守ろうとしてくださって。
      でも、近寄って来るなり殴られてしまうなんて
      意外とどんくさいんですのね。体は大きいのに。
老牧師 :いや、はは、まったく、寄る年波で。(寄らなくてもだ)
      おはずかしい。
アドラー :それより、ねえ、牧師さま…
      こんな所でお話を聞いていただくのもなんですけれど
       あたくし、最近、男に捨てられてしまいまして
      ひどく傷心ですの。それはそれは自分勝手な男でして
       あたくしとは、本気ではあるけれども
       オレは結婚しない主義なんだとか言って
      さんざん好きに遊んだんですのよ。
      そのくせ、最近、やっぱり結婚する事にした、と言って
      あっさりポイ、ですのよ。
老牧師 :それは、それは…
     (恋愛問題にうといから気の利いた言葉が出てこない)
アドラー :あんまりくやしいから
      その男とつきあっていた時の写真を
      相手の女に送ろうかと思っていましたの。
       けれども、そんな事、もうばかばかしくなりましたわ。
       あたくしも、素敵な人を見つけたんです。
      それは、ロンドンで開業してらっしゃるお医者さまで
       とても物静かで、おだやかで、笑顔が素敵で…
       この間、あるパーティでお会いしたんですけど、そのあと
      なぜかテーブルの下にもぐってしまわれるほど
      相当に聞こし召してらっしゃったから
      あたくしの事は覚えてらっしゃらないかも…
      彼はなんと、あのシャーロック・ホームズさまの
      助手をしてらっしゃるんですのよ。
老牧師 :(真剣に死にそうなほど咳き込む)
アドラー :まあ、大丈夫ですか?!なにかお飲みになります?!
老牧師 :い、いえ、お構いなく…あの…
      わしは偶然、その方を知っとりますが…
アドラー :まあっ、本当ですの?!今度、ごいっしょに
      お食事会でも取り持ってくださいませんこと?!
老牧師 :まあ、そのぐらいなら、できない事もないような気が…
      しない事も…(はっきりしない)
アドラー :んまーっ、うれしい!さあ、これはお礼ですわ。
      失礼ですが、記念に取っておいてください!
老牧師 :おや、これは、もう出回っていない
      珍しいコインではないですか。
アドラー :お守り代わりに持っていたんですけれど
      牧師さまに差し上げます!
老牧師 :それはどうも。ギターを弾く時にピック代わりに…
      じゃなかった、金時計の鎖につけておきますよ。
      でも、マダム…確か、彼はもう結婚していたような気が…
アドラー :ふふ…♪nothing really matters to me 〜
      そんな事、あたくしには関係ございませんことよ。
      あらっ、いやだ、牧師さまの前で、なんと罪な事を!
老牧師 :ま、まあ、人間とはえてして just a poor boy
       のようなもの…
      罪深く自分ではどうしようもないからこそ神の御心に…
アドラー :あら、では、牧師さまもそうですの?
      (老牧師に、ずいっとにじり寄る)
      介抱しながら拝見していましたけれど、牧師さまも
      枝のように細くしなやかな体つき…v
       どこかさびしげで…
      あたくしが癒してさしあげますわ! (大接近)
老牧師 :どっ…同情はいりませんっ!
アドラー :遠慮なさらずに! どのみち風は吹きますわよ!
老牧師 :意味不明です!
アドラー :I ask you to be my Valentine!(曲がちがう)
老牧師 :(叫ぶ) I've got to go !
アドラー :No!
老牧師 :(叫ぶ) Will you let me go −
アドラー :No No No No No No No!(襲撃)
老牧師 :ぎゃあああーっ!(片手を宙に上げる)

(窓の外、木の茂みの中)

ワトスン   :合図だっ!(←本当はちがう)
        (しゅばっ、と発炎筒に火をつけ
        全開にされた窓から投げ込む)
路上の人々:(全員、示し合わせたように叫ぶ)
        火事だーっ!!!!

(ブライオニ荘、居間)

アドラー :まあっ、なんの騒ぎ?!
      (一瞬、顔を上げ、注意が逸れる)
老牧師  :(リーチの長さの勝利でなんとか
       アドラーをひっぺがし起き上がる)
       こりゃいかん、火事だ!
       早くここから外へ逃げなければ!(特に自分が)
      Just gotta get right outta here !
アドラー :まあ、スモークがもくもく…v
       あたくし、こういう状況は大好きですわよv
       うっとりしてしまいますわ。
老牧師  :それは一酸化炭素中毒一歩手前です!
       このまま倒れて燃えてしまいますぞ!
アドラー :(はっ、とする)いけない!
       (ダッシュで壁際へ。仕込みボタンを押すと
       壁の羽目板が1枚パコッ、と取れて
       中にかくしスペースが。その中に
       ボヘミア王と彼女が並んで写った写真が1枚。
       あと、なんか妙な長さの棒がついたマイクも
       入っていたが意味不明)
老牧師  :(しっかり見届ける)さあ、マダム!逃げましょう!
       出口はどっちですかな?!
       (※本当に迷ったわけではなくて
       探偵技術上、気絶して運び込まれたはずのヤツが
       知ってるとおかしいからわざと訊いている。いちおう)
       あ、いやマダム、これは火事なんかじゃありませんぞ。
       発炎筒じゃ!誰かが投げ込んだらしい。
アドラー :まあ、いったい、誰がそんな事を?
老牧師  :さっきの連中ですかな…
       わしだけがマダムの施しを受けておるので
       からかう気になったのかも…
アドラー :あらv では、もっと施しますわよ。
老牧師  :いえ、結構! わしはこれでおいとまします!

(路上で)

ホームズ:(老牧師の変装をしたまま、蒼白な顔で前だけを向き
       長いストロークでズンズンズンズン速足に歩いている。
       顔や首のあちこちにキスマークがついている)
       これは現実なのか…それともただの幻…
       そうあって欲しいな…いや、悪夢だ、これは悪夢だ…
       また眠れなくなってしまう…
       確かに「したたかな妖婦」だよ、彼女は。
       老牧師も守備範囲内とはね。
ワトスン :窓から見ていてハラハラしたよ。
       てっきり、きみがヤラれちゃうのかと思った。
ホームズ:ああヤラれるところだったさ!それにね、ワトスン
       きみも今後注意しなければならないようだよ。
ワトスン :えー?(わかってない)
ホームズ:いや、なんでもない。
       しかし、きみの発炎筒のタイミングは絶妙だった。
      礼を言うよ。(自分が合図出したんだろ)
ワトスン :あれ、ホームズ、きみの変装は見事だけど
       その傷跡まで、なんだかリアルだねえ。
       殴られて流血するのは演出だったんじゃないのかい。
       食紅をてのひらに仕込んでさ。
ホームズ:いや、なんかあの浮浪者がキッカケをまちがったらしくて
      近づくなり、本当に当たってしまったんだよ。
ワトスン :きみってたまに、名探偵とは信じられないぐらい
       どんくさいよな…
ホームズ:でも、写真のありかは、ちゃんとつきとめてきたぞ。
      女性の心理ってやつでね、火事になると
       いちばん大事なものの所へ行きたがるのさ。
       まったく、女ってやつはあさはかだね。

(ベーカー街、ホームズ宅の前へ到着)

ホームズ:あれ?あら?(玄関のカギを取り出すのに手間取る)
       さっきの事で動転して…手が震えているようだ。
ワトスン :まったくもー、ホームズはどんくさいんだからあ。
      (あなたにあんまり言われたくない ←ディーコンさん江)

謎の紳士:こんばんは、ホームズさん。
ホームズ:…?
謎の紳士:(すぐに通り過ぎ、キュッとしまった体をひるがえして
       キビキビしたしなやかな足取りで去って行く)
ワトスン :…誰だろうね?

(翌朝、ホームズの部屋。朝食中)

ボヘミア王:(バンッ!とドアを蹴破るようにして入ってくる。
        いや、実際ちょっと蹴破ったかも)
        ホームズ!もう写真を手に入れたのか!
ホームズ :(のんびりトーストとコーヒーを取りながら)まだです。
ボヘミア王:まだだあ?!呼び出したのはお前だろうが!
ホームズ :今から、手に入れに行くのですよ。
ボヘミア王:じゃあ、今からすぐ行くぞ!とてもじっとしてらんねー!
ホームズ :本当に陛下はお気が短いですなあ。
        ゆっくり食べなければ、胃に悪いではないですか。
ボヘミア王:胃だ?!
        シャーロック・ホームズと言ったらパイプが友達で
        シガレットが親戚のニコチン大王だろうが!
       胃より前に肺がとっくにイッてんだろ?しかも
       事件がないとコカインが恋人のラリラリ野郎だろーが!
       そのうち歯も抜けるぞ!(←元歯学部医学生の発言)
ワトスン  :いざとなったら、ぼくが看取ってあげるからねv(平和)
ボヘミア王:だあーっ、オラ、行くぞ!
       (2人の首根っこをつかんで強制連行)
       表にオレの快速四輪馬車が待たせてある!

(馬車の中で)

ホームズ :ところで陛下、アドラーもすでに心変わりをしています。
ボヘミア王:なにっ?
ホームズ :相手は…(ワトスンの方を見ないようにしながら)
        そう、まあ、そこそこ立派なロンドンの
       開業医のようですよ。
ワトスン  :?(まったくなにもわかっていない。
        事件が進展しそうなのでニコニコ顔)
ボヘミア王:ふうん、アドラーが、そんな庶民的な野郎を
        好きになるとは思えねーが…
        まあ、蓼食う虫も好き好きって言うからな。
ホームズ :陛下、言い過ぎです…


(アドラー邸、「ブライオニ荘」の前)

ホームズ :(馬車から降りて)んっ…?まだ呼んでもいないのに
        メイドが玄関で待っている…まさか…(玄関へ急ぐ)
ボヘミア王:なんだ?どうした?
メイド    :あんたが、シャーロック・ホームズさん?
ホームズ :いかにも、そうだが…どうしてぼくがそうだとわか…
メイド    :あんたがたがいらっしゃるだろうと
       奥様から聞かされて待っていたんです。
        アドラー奥様なら、もういらっしゃいませんよ。       
ホームズ :なにいっ?!
メイド    :お引越しをなされたのです。
       行き先は申し上げられませんが。
       今朝早く、お発ちになりました。
ホームズ :なんてこった…
ワトスン  :ホームズ…?これは、ひょっとして、失ぱ…
       (でかい手で口をふさがれる)
ボヘミア王:なんだあ?アドラーに逃げられたのか?!
       ホームズよ、お前ヨーロッパに聞こえた名探偵のくせに
       意外とトロくさくないか?!
ホームズ :と、とにかく、調べてみましょう。

(ブライオニ荘、居間)

ホームズ:(例の、壁のかくしスペースをあける。
       中には、アドラーとボヘミア王が写った写真ではなく
       アドラー1人のイヴニング・ドレスを着た
       美しい写真が入っている。それから、手紙が1通)
ボヘミア王:手紙か?オレに?(取ろうとする)
ホームズ :(ピッ、と遠ざけて)いえ…私あてです。
       (ゆっくりと手紙の世界へ没頭する)

                〜
アドラー  :「シャーロック・ホームズさま
        見事なお手並みでした。
        実は何ヶ月も前に、陛下が捜索をお頼みになるなら
        あなただろうと周囲から警告されておりました。
        でも、あんな人の良さそうな牧師さまを疑う事など
        できませんでした。
        しかし、自分で大事な秘密をばらしてしまったと
        気づいてから、考えました。
        ご存知の通り、あたくしは女優の修行も
        しておりましたから、男装などお手のもので
        そのおかげで今までもずいぶんと気ままに
        ふるまったものです。(グ、グレート・プリテンダー…)
        それで夜の散歩を楽しむ紳士のような風体になって
        あなたさまの跡をつけ
        あの有名なシャーロック・ホームズさまに
        狙われているのだと確認しました。
        そして、ああ…お隣にはジョン・H・ワトスンさまも…v
        多少あつかましいかとも思いましたけれど
        ご挨拶をさせていただいて
        すぐに自宅へ舞い戻ったのです。
        同時に、陛下もそれほど本気であたくしを
        (と言うより、例の写真を)狙っておいでだと
        わかりました。
        あたくしも、これ以上陛下のいいようにはなりません。
        とりあえず姿を消させていただく事にいたしました。
        というわけで、明日おいでになりましても
        すでにもぬけの空だと存じます。
        写真の事はご安心くださいと
        あなたの依頼人にお伝えください。
        私はすでに、もっとすばらしい方を見つけたのです。
        陛下は、その昔もてあそんだ女からの妨害など
        お気になさらず
        そのままマイペースでスピード狂でご自由に
        お好きな事をなさっていいのです。
        例の写真は、あたくしの身を守る武器として
        持っておきます。今後、陛下があたくしにどんな事を
        なさろうとしても、これがあれば安心していられます。
        代わりにと言ってはなんですが
        あたくし1人の写真を置いて行きます。
        陛下がお望みであれば、お持ちください。
        それでは、また、いつかどこかで
        お会いできる事を祈って。それも、近いうちにね。
        シャーロック・ホームズさま…
        それから、お隣にいらっしゃるであろう
        ジョン・H・ワトスンさまもv
                         アイリーン・アドラー 」
                〜

ボヘミア王:っか〜、なんて女だ!どうだい、オレの言った通り
       頭のキレるしっかりした女だろ!
ホームズ :(胃の辺りに妙なシク〜ッとした痛みを感じながら)
        はあ…
       しかし陛下、陛下のお望み通りの形で
       解決できませんでした事を、お詫び申し上げます。
ボヘミア王:いや、とんでもない。オレは満足してるよ。
       あの女は言った事は必ず守る。そういう女だ。
       写真の件は、こっちが妙な事をしねー限り
       永遠に安心ってわけだ。
       いや、結婚前にいいクスリになったぜ。
ワトスン  :良かったね、ホームズ。
ホームズ :いや、それが、あんまり良くないような気が
        するんだな…
ワトスン  :え?どうしてだい?
ホームズ :いや、なんかこう…
        もやーっと、スッキリしないと言うか…
ワトスン  :まったくー。ホームズは完璧主義だからなあ。
ホームズ :いや、そういう問題でもなくて…
ボヘミア王:あー、ウオッホン(最後に精一杯威厳を総動員して)
       ホームズよ、きみには言葉では表せないぐらい
       たいへん世話になった。
       なんでも望みの報酬を与えよう。
       この、ライオンをかたどった純金の指輪などはどうだ?
ホームズ :いえ、陛下は、それよりも価値あるものをお持ちです…
ボヘミア王:なんだ?なんなりと、言ってみよ。
ホームズ :この写真です。
ボヘミア王:ほう、アイリーンの写真をか?
       …ククッ、あんたもスミに置けね〜なv ホレたか?
ホームズ :いえ…どっからどのような姿で来られてもいいように
       原型を頭に焼き付けておくためです…

(そう言うとホームズは、ボヘミア王が差し出した握手の手も見ずに
 うなだれて、長身を猫背にして去って行く。
 ワトスンが代わりに満面の笑顔で握手して
 意気揚々とホームズのあとに続く)

≪後日談 〜ジョン・H・ワトスン博士の手記〜≫

 …困った事になった。最近、ぼくの診療所に
とても熱心に通ってくるご婦人がいる。
それが、なんとあのアイリーン・アドラー婦人なのだ。
しかも、どこも悪くないのに毎日来る。
と言うか逆に健康過ぎて病的なぐらいだ。
黒く神秘的な瞳で熱っぽく見つめられて
こっちもどぎまぎしてしまう。
妻は機嫌が悪くてしょうがない。まだ新婚だっていうのに
どうすりゃいいんだ…
しかし、これは現実…No escape from reality...
なんとかしなくちゃ…
ホームズにぼくが解決を依頼するというのも妙な話だが
それ以前に、どうやら、ホームズ自身も
ちょっかいを出されているらしくて困り果てているのだ。
2人は、仁義なき変装合戦をくり返している。
たまにホームズを訪ねようとしてベーカー街へ行き
見知らぬ人どうしが追いかけっこをしているなと思ったら
それはたいがいホームズとアドラー婦人なのだ。
そしてアドラー婦人がぼくにも気づいたら最後
それはそれはややこしい三つ巴の追いかけっこになる。
 これが、ボヘミア王国を揺るがした…
と言うより、超マイペースでやりたい放題のボヘミア王が
ぼくたちに押しつけて行った大スキャンダル事件の顛末である。
と言うか、まだ続いてるんだよな…
 また、精密機械ホームズの巧妙な計画が
ひとりの婦人の機知によってうちくだかれたという話でもある。
ホームズは、以前はよく女性の浅知恵を笑ったものだが
それも聞かれなくなった。
ホームズは相変わらず恋愛感情というものを持ち合わせていないし
(と言うか、ただ恋愛下手なだけだろう)もちろん、恋人もいない。
しかし、そんな彼にも「特別な女性」というのはいて
それが、かのアイリーン・アドラーなのだ。
しかし、かと言ってホームズがアドラーに対し
甘い恋心のようなものをいだいているというわけではない。
ホームズは、彼女の事を話す時、尊敬の念と
かすかな憧れの念と…それから、多大なる恐怖の念を込めて
あの人」とだけ呼ぶ…


「メイ探偵ホームズ」
第1話
『ボヘミアの醜聞 〜ボヘミアン・ラプソディ&スキャンダル〜』

The End

※そう…「ボヘミアの醜聞」とは
  実はシャーロック・ホームズ短編シリーズの第1話目にして
  数少ない「ホームズが失敗する話」(3つか4つぐらいある)の
  ひとつなのでした…(←本当)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
参考文献
偕成社 「シャーロック・ホームズの冒険(上)」より
      第1話 『ボヘミアの醜聞』
サー・アーサー・コナン・ドイル/著 常盤新平/訳

Yukari SHIMA
THU.17 APR. 2003

:: BACK ::