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眠れる森の美女

ある国に、念願のお姫様が生まれました。
王様は森に住む良い魔女を招待して、姫のために魔法を使ってほしいと頼みました。
「お安い御用です。それでは3つ叶えましょう。
まずは…誰よりも可愛い子になりますように」
ハスキーな声の魔女が手に持ったスティックを振ると、
ゆりかごの赤ん坊がにっこり微笑みました。
「次は、誰よりも綺麗な声で歌えますよう…おっとしまった」
宴会ですっかり出来上がっていた魔女はそこで魔法のスティックを
おっことしてしまいました。
(ま、いいかな)
細かいことは気にしない魔女が最後の願いごとをしようとしたときです。
「なんで僕を呼ばなかったんだい!」
悪魔が姿を現しました。
王様の国は地味で貧乏だったので、派手好きな彼を招待する予算がなかったのでした。
怒った悪魔は赤ん坊のほっぺを黒い爪でなぞりながら、恐ろしい予言を行ったのです。
「この子はね…二十歳の誕生日にベースギターを弾いて死ぬのさ!」
そう言うなり彼はスモークと共に消え去ってしまいました。
嘆き悲しむ王様に、良い魔女が言いました。
「大丈夫、彼女は眠りにつくだけです」
それで皆安心しましたが、王様は予言があたるのを恐れて、
国中のベースギターを処分しました。

月日がたち、オーロラ姫は大人しくて笑顔の可愛いお姫様に成長しました。
ただ、2番目の願いだけはやはり効果がなかったようでした。

二十歳の誕生日、オーロラ姫は塔の上から聞こえる美しい歌声が気になって、
一人で上がってみました。そこでは白い服の人がピアノで弾き語りをしていました。
「ああママ、ママ…もう死んだ方がましだよ…」
その様子が余りにも悲しそうだったので、姫はなんとか助けてあげたいと思いました。
「どうしてそんなに悲しいの?」
白い服の人物はきらきら光る漆黒の瞳で黙って姫を見つめて、視線を落とします。
ピアノの側には、姫が今まで見たことの無い4本の弦のギターがありました。
「これを弾けばいいのね」
姫はギターを手に取ると、ピアノと美しい歌声に合わせて一生懸命弾きました。
ところが、そのうちに指が痛くなったので、弾いていた指をぺろっとなめた途端、
姫はその場に倒れてしまいました。
そのベースギターには毒が塗ってあったのでした。

「やった!成功だ!」
白い服をぱっと脱ぎ捨て、20年前の悪魔が姿を現しました。
そしてその瞬間、良い魔女も現われました。
「甘いな、悪魔くん。オーロラ姫は死んではいないのさ」
悪魔は平然として答えます。
「僕だってそれくらい原作読んで知ってるよ。眠ってるんだろ?
このまま連れて帰って、それから…それから…うっふっふ」

彼が不敵に笑いながら倒れた姫を胸にかき抱こうとしたとき、
隣の国の王子様が息せき切って塔に登ってきました。
「ふう、ふう、ああ、疲れた…肉体労働は苦手だよ」
「遅いじゃないか!さあ、悪魔を倒して姫を取り返すのよ!」
魔女とバトンタッチした王子ですが、動作がとろいので悪魔にいいように
あしらわれてしまいました。
「オーロラ姫を返したまえ!」
「ふーんだ。誰が君なんかに渡すもんか。僕に歌で勝とうなんて思うなよ」
悪魔の妖しい歌声は王子の精一杯のか細い声を消し去ってしまいます。

旗色が悪くなった王子は最後の手段に出ました。
アコースティックギターを悪魔に投げて言います。
「それならギターで勝負しようじゃないか。それ弾いてみろよ」
「うう…僕は2コードしか知らないんだ…」
ここぞとばかりに王子が手製のギターをかき鳴らしたので、
悪魔は耳をふさいだまま死んでしまいました。

「やはりギターは剣より強し、だな」
王子は喜び勇んで帰っていきました。

…姫のことはすっかり忘れています。

忘れられたオーロラ姫は今だに眠っていますとさ。
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