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シンデレラ

Written by Yuriさん

昔、一人の女の子がおりました。名前をシンデレラといい、
両親を亡くした後は養父母に引き取られ、いつも薄汚れたシャツと短パン、
びしょびしょのビーチサンダルという格好で炊事洗濯掃除を毎日こなしていました。
いさかいなく日常をやり過ごそうとシンデレラはいつも笑顔でした。
「シンデレラは笑顔しか取り柄がないからねえ」
煙草をふかして言うのはブロンドの髪をなびかせる意地悪な義姉でした。
「あたしお城の舞踏会に行くの、ま、あんたはいつも通り留守番だけどね」
(いつボロが出てもおかしくないのによく言うよ、肉がつき過ぎて、
ドレスのジッパー上がらなかったの知ってるんだから)
そう言い残して義姉は嬉しそうに出かけて行きました。
一人取り残されたシンデレラは屋根裏部屋の小さな窓から明るく輝くお城を
ため息混じりに見つめるのでした。

どすーん。

その時外で大きな物音がし、驚いて外へ出るともうもうと白煙があがり、
その中から黒い服を着た大女が現れました。とんがり帽子にとんがった鼻は
いかにも魔女なスタイルですが、背中にはギターを背負っていました。
「妹よ、君は大きく羽ばたいても私は今だ羽ばたけずにいるのだ」
ひとしきり嘆くと、目の前のシンデレラにようやく気付きました。
「ああ麗しき冬空の下の短パンの乙女!」
(おいおい大丈夫かこいつ)
その素行があまりにもおかしかったため、シンデレラは少し意地悪をしようと、
魔女の背中からギターをかっぱらい、それをかき鳴らしました。
「あっ、やめて下さい!」魔女がか細い悲鳴をあげてギターを奪い返そうとするも、
敏捷な動きに魔女はついていけずへたりこんでしまいました。
「私が何年もかけて作った我が子のようなギターなんです、返して下さいお願いします」
魔女の訴えを無視してシンデレラはなおも指をなめつつギターをかき鳴らし続けたので、
ついに魔女は泣き出す始末。
「何でもしますからぁ、返して下さいよぅ〜」
その言葉を待っていたかのように、シンデレラは腐ったカボチャとネズミ2匹を差し出し、
地面に置いて笑顔で魔女を見つめました。
「そんな都合のいいことはちょっと…」
魔女がしらばっくれるとシンデレラは再びギターをかっぱらい、
天高く放り投げる素振りを見せます。
「ごめんなさい、やりますからやめて〜!ぅぅぅ…えっと呪文は…
むすたーふぁいーぶらひぃぃーむ、むすたーふぁいーぶらひぃぃーむぅ〜ええいっ!」
魔女は魔法でカボチャを馬車に、ねずみを馬に、ボロボロの服と
ビーチサンダルを綺麗なドレスとガラスの靴に変えました。

「でも約束して下さい、あなたは舞踏会の最中、一言も喋ってはいけません。
喋ってしまうと魔法の効果がたちまちなくなってしまいますからね」
(ちっ、やっかいなこと言い出しやがって)
シンデレラは喜んで馬車に乗り込み、舞踏会に出かけて行きました。
「はぁ、可愛い顔してなんて狡猾な女の子なんだろうか…
しかし苛められるのって、結構好きだ…ああ痛くて痛くて実に気持ちいい」

華やかな舞踏会の中で、王子はご機嫌斜めでした。
その気もないのに両親の命令により今日必ず一人、花嫁を決定しなければならなかった
からです。むっつりと黙り込み、シャンペンをひたすらあおっていました。
座った目で会場を見回しますが、これといったタイプはおらず、
シャンペンの量は増える一方です。
軽快な音楽が流れる中、招待客は歓談したり踊ったりしていましたが、その中に突然
華麗なステップで踊るシンデレラが現れました。あまりにも正確なリズムを刻んで
踊るので、俄然注目の的でした。王子は簡単にシンデレラに惚れ込んでしまい、
おぼつかない足取りでシンデレラへ近付き、
「君は素晴らしい、私を酔わせるそのステップを踏む脚を見せてくれないか」と言い、
黙ってシンデレラがドレスの裾をたくしあげて見事な脚線美を披露すると
会場内がどよめきに包まれ、特に王子は足を踏み鳴らして興奮しました。
「私と同じ位美しい脚線美だ、やはりナマ脚に限る!
ちょうちんブルマーとタイツを身に付けている場合ではない!」
酔った王子は家来の制止を振りきり、即席ストリップショウを始めました。
たくさんの飾りの付いた上着を脱ぎ捨て、真っ白サテンのフリル付きブラウスの
ボタンを一つずつ丁寧に外すとふさふさの体毛に覆われた上半身が現われました。
会場は修羅場と化しました。王と妃は声をあげて泣き出し、家来は右往左往し、
男達は雄叫びをあげ、女達は狂気に至りましたが、王子は意に介すことなく
周りの様子を伺いながら、笑みを浮かべてちょうちんブルマーをゆっくり脱ぎ、
靴も放り投げ、白いタイツ一枚になりました。
そしてシンデレラの目の前で一気にタイツを脱ぎ捨てると紅白縦じまの
‘新装開店’ホットパンツが出現しました。
その姿をみたシンデレラは肝心なところに目をやると思わず
「詰め物…?あっしまった!」
口を開いてしまうと魔法が解けてしまいます。
シンデレラは翻って外へと走り出しました。
「どこへ行くんだ!」
王子もホットパンツ姿のまま後を追いました。
シンデレラは長い階段を脱兎の勢いで降りていきます。
あまりの速さにガラスの靴が脱げ落ちてしまい、拾おうとしましたがそんな
余裕もありません。ようやく階段を降り切ると、素早く物陰へ隠れました。
シンデレラを見失った王子は何度も名前を叫び続けましたが返す声はなく、落胆しました。
しかし階段の途中で、シンデレラのガラスの靴を見つけ拾い上げ、
「ああ…きっと探し出して見せよう!」
王子の絶叫は国中に聞こえたといいます。

シンデレラが普段の生活に戻って一週間もした頃、
町に王子のシンデレラ探し一行がやってくるとの噂でした。
「露出狂だけど、金にはかえらんないわよねぇ〜」と義姉が自信満々に笑っていると、
その一行がやってきました。
「このガラスの靴がぴったり合った者は私の花嫁だ」
「じゃああたしが履いてみるわ」
義姉がそれを履こうとすると、すかさず王子が
「靴が壊れてしまう、この女ではない!」
その言葉に義姉はブチ切れ、キーキーわめき散らしたあげく
「あたしの体も見たことないくせによく言うわこの露出狂!」
との捨てゼリフを吐いたので王子の逆鱗に触れてしまい、捕らえられてしまいました。
一部始終をシンデレラは屋根裏からのぞいていましたが、
いてもたってもいられず、貧しい身なりで王子の前に現れました。
「なんだ、まだいたのか。まあ違うだろうが…靴を履いてみてくれ」
シンデレラはビーチサンダルを脱ぎ、ガラスの靴に足を少し押し込むと
ぴったりとはまりました。シンデレラが体を起こすと王子はその顔を見つめ、
舞踏会で惚れ込んだ人物であることに気付き、言いました。
「君こそ私の探した人だ」
王子はシンデレラを本物の馬車に乗せ、本物の綺麗なドレスを着せて城へ戻り、
盛大に婚儀を執り行いました。

後日談(その1)
捕らえられてしまった義姉は汚らしい運搬車に乗せられましたがその中に
一人の大きな魔女がおりました。ギターを抱えて虚空を見上げる様子があまりにも
気味悪く、捕らえられた腹立たしさの収まらない義姉は魔女の脚を蹴飛ばしました。
「あっ!」魔女が切な気な声をあげ、身をよじらせました。
義姉はますます気味悪がって何回も何回も蹴飛ばしたのですが、怒るどころか
嬉しそうにしているのでつい義姉も面白がってつついたり引っ張ったりして
楽しみました。牢獄の中でも二人はそんなことをし続けていたそうです。

後日談(その2)
婚儀を終えた王子とシンデレラはお楽しみの夜を迎えていました。
「シンデレラ、なぜ明かりをつけないんだい?あなたの可愛い顔が見えなくて
寂しいよ、明かりをつけてもいいだろう?」
「ダメです恥ずかしいから…」
「そんなことを言われると余計見たくなってしまうんだ、さあ明かりをつけるよ…」
明かりをつけると大きなベッドの真ん中に、シーツをすっぽり
被ってちぢこまったシンデレラが。
「本当に恥ずかしがり屋さんだなぁ、顔を見せておくれ」
そう言って王子がシーツをはぎとりました。…

ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

…その後王子とシンデレラは仲良く暮らしたそうですが、
新婚初夜に聞こえた王子の悲鳴の理由は今もって口外してはならない、とのことです。
おしまい。
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