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三匹のこぶた

『大変だねロジャー、一人三役で』
(どかっ、ばきっ)『ぐえええ』
『それくらいにしておいてやるよ。歯が欠けたらオオカミできないもんな』

昔むかし、あるところに、こぶたの三兄弟が暮らしておりました。
一番上のこぶたは頭は良いのですが少し栄養が足りないようで、動作が
とてもとろいのでした。
しかし三番目のこぶたが兄さん想いのしっかり者だったので、
いつも助けてあげていました。
そして二番目のこぶたは、美ブタコンテストに入賞するくらいの
美貌の持ち主でしたが、当然…「自分が一番!」でした。

ある日、こんなことではいけないと決意した長男こぶたが、各自独立して
家を持とうと言い出しました。

「けっ、かったるいぜ。家なんかちんたら建ててられっかよ」
次男こぶたがブウブウ言いながら歩いていると、丁度よい大きさの納屋が
見つかりました。
「こりゃいいや。ここに住んでやれ。
おお、電気器具もみんな付いてるじゃねえか。
まさに電脳納屋だな、はっはっは」
ぴゅううう〜〜〜。
すると突然ひどい風が吹いて来て、中に入ってくつろいだのも束の間、
納屋は木っ端微塵に吹き飛ばされてしまいました。
「な、なんだってんだよ!」
埃の向こうに、腰に手を当てて仁王立ちしているオオカミの姿が見えます。
「僕は百獣の王、オオカミだ。お前なんか食ってやる」
「百獣の王はライオンだろうが〜!ちょっと待てよオイ…うわあああ」
次男こぶたは一生懸命走って、長男こぶたの元へ逃げ込みました。

「たっ、助けて兄貴、食われちゃうよ、早く入れてくれぇ…って、
どこだよ家は!」
焦る次男こぶたに、長男こぶたは手に持った家の模型を嬉しそうに見せました。
「ほら、これだよ僕の理想とする家は。まあ見てくれ、この材質。うちの
古い暖炉に使ってた木だよ。それからこっちのドアノブは母さんのボタン。
壁の色は赤にしようと思うんだけど、どう思う?」
「…たかが模型に凝ってんじゃねーよ!」
ぴゅうううう〜〜〜。
また風が吹いて来て、長男こぶたは模型の家を落っことしてしまいました。
「ああ〜、僕の大事な家がぁ…」
「ふっふっふ。不味そうだけど、お前も一緒に食ってやるぅ!」
大きな口を開けてオオカミが迫ってきたので、二匹はこけつまろびつ、
三男こぶたの元へ逃げていきました。

幸いにも、三男こぶたはレンガ造りの大きな家を造ってあったので、二匹は
安心して中へ入りました。
「はぁ〜、良かった。痩せる思いだったぜ」
「(どこがだよ)これならオオカミも吹き飛ばせないから、安心だね」
「あの馬鹿、必死になって息を切らせるんだろうな、ざまあみろ」
「そうだ、鍋をぐつぐついわせておかなきゃ駄目だよ。彼は煙突から入って
来るはずだから」
「じゃあ今夜はオオカミ鍋か。うまそうだな」

ところが。
(ふっ、みんな僕の賢さを知らないな?)
オオカミは家の前でほくそえんでいました。
(誰が煙突なんか登るもんか。僕はジェントルマンだよ?
ちゃんとドアから入って、挨拶してから…ふふふ)
トントントン。
「だあれ?」
(…あれ?なんか可愛い声だな。緊張しちゃうじゃないか…)
「僕は、お、おか…」
『わーい、おかあさんだー!』
『ほんとぉ?』
『駄目だよ、ちゃんと確かめなきゃ…』
鍵穴の向こうからひそひそ声が聞こえてきます。
「ねえ、ほんとにおかあさん?」
(…はあ?)
オオカミは良く分からなくなってきましたが、とりあえず相手に合せました。
「そうよ、おかあさんよ。い・れ・て♪」
『やっぱりおかあさんだ』
『違うよ。あんなに良い声じゃないよ』
『ううん。おかあさんは歌うまいよ。おとうさんは音痴だけど』
『そうだね』『そうそう』
「え〜い、何をごちゃごちゃ言ってるんだい! 入っちゃうよもう!」
やけを起こしたオオカミはドアに体当たりしました。

「???」

オオカミが目にしたのは、わらわらと逃げ惑うちっちゃなこぶたの群れ。
「…なっ、何なんだよこれは! いつから話が『オオカミと7匹のこやぎ』に
変わっちゃったんだよ?」
「やぎじゃなくてブタだよ。それに、まだ6匹しかいないからね」
子供を小脇に抱えた三男こぶたが忙しそうに出てきました。
「妻が留守だから何もお構いできないけど、まあゆっくりしてってよ。
…こらこら、時計の中に入るんじゃない! あっ、それはおとうさんの
海水パンツだから履いちゃだめ! いたたた、髪の毛で遊ばないの!まったく、もう…」

「…今度は何か手土産持って来てあげるからね…」
すっかい圧倒されたオオカミは、そっとドアを閉めて出て行きましたとさ。
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