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ヘンゼルとグレーテル

Written by Yuriさん・Illustrated by Kaoruさん

大きな森の側に、きこりとその子供のヘンゼルと
グレーテルが住んでいました。
きこりは毎日森へ出掛けては来るのですが、
一本の木を切り倒すのに10日前後かかるので
毎日の生活は大変苦しいものでした。
兄妹は生活を支える為に、自分達も森に繰り出しては
木の実を拾ったり、獣を捕まえたりしていました。

ある日のこと。

二人が身支度をしていました。随分と大きな荷物を抱えています。
「親父、俺ら今日帰らないからな」
「…えっ、父さんを独りにしていくのかい!?」
気弱な父はヘンゼルの言葉に顔色を変えました。
「だってさ、この辺じゃ何も見つかりゃしないんだよ。
親父の稼ぎだけじゃ一月も経たないうちに餓死だぜ」
父は半泣き状態でヘンゼルの足元にしがみつきました。
「…父さんだってそんなことはわかっている、
今作っている『自動伐採機・与作7』が出来れば
なんとかなるから、今は耐えてくれ…」
ヘンゼルは鼻で嘲笑って父の腕を脚で払いました。
「いい加減その幻覚だか妄想だかから目覚めてくれ!
そんなことだから母さんにも逃げられたんじゃねぇかよ」
図星だったので父には言い返す言葉がなく、たださめざめと泣くばかりでした。
と、さっきから何も言わずにヘンゼルの横に立っている
グレーテルに懇願の眼差しを向けました。
「お前はここにいるんだね、そうなんだろう?」
グレーテルはにこにこと楽しそうに笑って言いました。
「保存食は台所にピーナッツの袋がいっぱいあるから」
愕然とする父を残して二人は出掛けて行きました。

今まで入ったことのない森は予想以上に深く、
二人はとうとう道に迷ってしまいました。
「迷っちゃったね兄さん」
「いやー、これは予測してなかったよ。参ったな…腹減った…
そういえばお前、ピーナッツの袋持ってきたんだろ?」
グレーテルがモジモジしながら空き袋を取り出しました。
「兄さんが道を探していた時に、ちょっと食べていたらなくなっちゃった」
「〜〜〜〜〜!!」
腹ペコの兄は地面に寝転がるとヤケになって奇声を発しました。
それでどうなる訳でもなく、余計に腹が減るだけだと
グレーテルはまるで他人事のように呆れていました。
自分の責任はあまり感じていないようでしたが。

フテ寝をしている兄をよそに、グレーテルは周囲を見回していました。
少し先に、家の影が見えました。
急いで近くに寄ってみると、それはお菓子で出来た家でした。
グレーテルは窓枠のチョコレートを折り取って一口食べて、
残りをヘンゼルの元へと持っていきました。
「兄さん、あそこにお菓子の家があったんだよ。すごくおいしいから」
不機嫌なヘンゼルはやみくもにチョコレートの大きな欠片に
かじりつきましたが、食べるうちにどんどん嬉しそうな表情になり、
「グレーテル、もっと喰いたい!」
と、お菓子の家に走り出し、スポンジの壁にかぶりつきました。
グレーテルも一緒に砂糖で出来た窓を嘗めていたところ、
家の中から黒づくめの格好の魔女が出て来ました。
「おぉ君達は餓えているんだね、それならばもっとおいしいものを
食べさせてあげよう、さぁ中にお入り」
妖しげな指先で招かれて、二人は中へ入っていきました。

実はこの魔女は人を喰う魔女でした。
疲れた二人が眠っている間に、ヘンゼルを小さな家畜小屋に
閉じ込めてしまいました。グレーテルは早朝から叩き起こされて
家事労働にと散々こき使われました。
「ヘンゼルはどこにいるの?」
グレーテルが姿の見えない兄を不審に思って魔女に訊ねました。
「兄さんはね、たくさん太らせて食べてしまうんだよ」
「…あれ以上太らせてしまったら脂ばっかりでおいしくないと思うな」
「お前は兄さんが心配じゃないのかい?」
「大丈夫、ヘンゼルは強いから」
魔女はヘンゼルを食べることよりも、グレーテルのことが
気になり始めてしまっていました。
次第に家畜小屋のヘンゼルのことはすっかり忘れて、グレーテルに
夢中になってしまいました。

「…ねぇ、そろそろいい頃じゃない?」
魔女がグレーテルに擦り寄って体のあちこちを撫で回しました。
グレーテルが少し抵抗すると魔女が泣き出してしまったので
なだめてあげていると、魔女は猛然とグレーテルに乗りかかってきました。
うふふ
「うっふふふふ、もう逃がしはしないよダーリン・」

その時でした。ドアを蹴破る音と共に、
閉じ込められていたヘンゼルが飛び込んできました。
「魔女!てめーグレーテルに何するつもりなんだ!」
「うっ、せっかくいいところだったのに…」
すごい剣幕で魔女の胸ぐらを掴んでヘンゼルは続けました。

「密かに俺も狙っていたんだぞ!!」…

魔女は穏やかに笑ってヘンゼルに言います。
「私は争いごとが嫌いなんだ。ここは一つ、
博愛精神を発揮しようではないか。グレーテル、いいかい?」
グレーテルの返事もはっきりしないうちに狂乱の宴と相成りました。

その後、博愛精神は結実し、3人はいつまでも幸せに暮らしました。

そして残されたきこりの父は、未だにピーナッツで飢えをしのぎ、
いつ完成するか見当もつかない『自動伐採機・与作7』の製作を続けているそうです。

めでたしめでたし。
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