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少年時代の大冒険(?!)編

Written by Syo-koさん (Adapted by mami)


(プロローグ)

「さあ、今度は『オウガ・バトル』だ。いいかい、ワン、トゥー、スリー」
フレデリック王子が拍子をとった。
4人は今日も仲良く音楽に興じている。
ちゃららららららっ、ちゃららららららっ、…ハロルド王子の愛器が唸る。
でけでけでけでけ、でけでけでけでけ、…大胆なメドウズ王子のドラムと
リチャード王子のベースが呼応する。
次はフレデリックとメドウズのハイテンションコーラスだ。

「あ〜っ、あ〜っ、あ〜っ、あ〜っ、…ゲホゲホゲホ」
ずっこける3人。

「ど、どうしたんだよメドウズ」
「わりぃわりぃ、ちょっと喉の調子が悪くてさ」
「タバコの吸いすぎですよメドウズ兄さん。体に毒です」
「そんなこと人に言えるのかぁ、リチャード。もう分けてやんないぞ」
「それよりメドウズ。『あの時』みたいに叫んでくれなくちゃ困るよ。
あれは極めてたからねえ」
「フレディ兄貴だってすっごい声だったじゃん、『あの時』」
「なんだい、『あの時』って?…ああ、例の騒ぎの時のことだね」
急に遠い目をして昔を懐かしむ3人と、
(僕はあんまり覚えてないなあ)曖昧に微笑むリチャード王子。
さて、『あの時』とは一体なんだったのか。ここで時を遡ってみることにしよう。
Now once upon a time----!

それは、貴公子たちがまだ小さな子供だった頃のある日の夕暮れの事。
クイーンズロックの王城ではとある騒ぎが起きていた。
「フレデリック王子とメドウズ王子はまだ見つからんのか!」
「申し訳ございません。…皆で城中を捜しているのですが、どこにもおられません!」
「…一体、どこに行かれてしまったのだ?人騒がせなお方たちだ」
すっかり困り果てた顔のビーチ大臣。それもそのはず、フレデリック王子と
メドウズ王子の姿が城内から忽然と消えてしまったのだから。

そこへ、リチャード王子の手を引いたハロルド王子がやってきた。
「大臣、兄さん達は見つかったかい?」
「それが、まだ。おそらくは、城の外へ出られたかと。
…ところでハロルド様、そのカラスの格好は何ごとですか」
「ヒドイなあ、カラスだなんて。ペンギンだよ。
リチャードが寂しそうにしてるから、慰めているんだ。…まったく、
兄さん達ったら、またどこかで遊びほうけているに違いないね」
「あにうえ、フレデリックあにうえたちはまだかえってこないの?」
まだ幼いリチャード王子が不安気に尋ねる。
「大丈夫。…きっと、もうすぐ帰ってくるよ。
…おそらく、たぶん、そうだと思うんだけどなあ」
いま一つ説得力に欠けるハロルド王子である。おまけに格好が格好だ。

「…ボク、あにうえたちは、しろのうらやまにいったとおもうよ」
リチャード王子が真面目な顔で唐突に打ち明けた。
「どうしてだい?」
「フレデリックあにうえがいってたもの。しろのうらやまにはひとくいおにがいるんだって。
ボクが『こわいよ』っていったら、たいじしてきてやるって。
きっとひとくいおにをさがしにいったんだ」
「な、何だってぇ〜!?それを早く言ってよ〜!」
またまた、城内は大騒ぎになるのだった。

「…っくしょーん!」
「兄貴、カゼ引いたの?」
「誰か僕の噂をしてるのかな?…それより、もう帰ろうよメドウズ。僕疲れたよ」
「…最初に来ようって言ったの、兄貴だよ」
そこは王城の近くにある小高い山の上。辺りはすっかり暗くなっていた。
『城の裏山には人喰い鬼が住んでいる』
それは、クイーンズロックに伝わる他愛の無いおとぎ話のひとつに過ぎないのだが、
その話をすっかり信じ込んだフレデリック王子は真相を確かめるべく
(弟にカッコ良く約束した手前もあって)、メドウズ王子を巻添えにして
一路山頂を目指した…のだが、予想通り山道を登るのにすぐ飽きてしまい、
着いた頃にはもう帰りたくなっていた。

「でもさぁ、人喰い鬼なんてホントにいるのかな?登ってくる途中にも何もなかったし」
「本当だって。ちゃんと証拠もあるんだよ」
「証拠?」
「昔読んだ絵本に書いてた」
ずこっ。…思わずコケるメドウズ王子。
「ま、まあ、今日はもう遅くなったし、また明日にしようぜ」
「明日は馬車で来ようっと」
「…無理だってば」

こうして、2人は山を下り始めた。
しかし、夜の山道を明りも無しに歩くのは、決して気味の良い話ではない。
真っ暗な道を歩くうちに、さすがの2人もだんだん気味が悪くなってきた。

ばさばさっ。
「ぎゃぁっ!な、なんだ、鳥か」
「メドウズってば、そんな事で驚いちゃって」
「兄貴だって、さっき枝が揺すれる音でびっくりしてたくせに」
そんな言い合いをしながら歩いていた2人だったが、急にメドウズ王子が足を止めた。
「どうしたの?」
「あ、あ、あ、」
メドウズ王子が指し示す方向を瞳を凝らしてよく見てみると…!
木々の間から、大きな物が見えた。
しかも、それにはご丁寧に巨大な一つ目と大きく裂けた口がついている。
「それ」は2人をじっと睨んでいるようだった!

「あ、あ、あ、あ、うぁ〜〜〜〜っ!!」
大音響のボーイソプラノで叫ぶが早いか、全速力で駆け下りる2人。
「ひっ、人喰い鬼だ〜!」
「たっ、助けてぇ〜!人喰い鬼に食べられちゃうよぉ〜!」
すっかりパニック状態の2人が山道を必死で走っていると…。

どかっ!!
「あいたたたた」
「いててて、んっ?なんでペンギンがこんなとこに…?」
「あっ、ハロルドかい?どうしてここに?」
そこにいたのは、痛そうに頭を押さえたハロルド王子だった。
その傍らには、ビーチ大臣の姿が。
「リチャードが兄さん達はここだって言うから、捜しに来たんだ」
「お2人とも、黙って城を空けるとは何事ですか!皆心配しておりましたぞ」
「そ、それどころじゃないよ、に、逃げなきゃ人喰い鬼がぁ!」
「なにやら、只事ではないご様子ですな。ちょっと調べて参りますので、お待ち下さい」

様子を見に行ったビーチ大臣が戻ってくると、フレデリック王子がこわごわ尋ねた。
「ひ、人喰い鬼、まだいた?」
「ええ、いましたよ。もっとも、あの人喰い鬼は何もしませんが」
「はぁ!?」
「もう一度よく確かめると解りますよ」
一行が先刻の場所へ行ってみると、「人喰い鬼」はまだそこにいた。
「明りを近づけてよくご覧になって下さい」
言われるままに、おそるおそるのぞいて見ると。

「ああっ!」
「…ただの岩じゃない」
「その通り。こうして明るい所ではただの岩ですが、暗闇では岩の窪みが
まるで大きな目と口のように見える。さしずめ、これが人喰い鬼の正体という所でしょう」
「なぁ〜んだ、そうだったんだぁ」
ちょっとつまらなそうなメドウズ王子だったが、急にこう言い出した。
「ビーチ大臣、このことは僕らだけの秘密にしようよ。
皆にもスリルを味わせてやらなきゃ、面白くないよ。兄貴たちもそれでいいよね」
「わかったよメドウズ。じゃあ、僕らが鬼を退治したって、リチャードに言ってやろうっと」
「それなら早く帰らなくちゃ。みんな待ってるよ」
「…そうだった。みんな、城へ帰るよ、OK?」
「All Right!!」
こうして、貴公子達の冒険(?)は幕を閉じたのだった。

(その日のフレデリック王子の日記)
「○月♪日:今日、僕達はついに伝説の人喰い鬼の正体を暴いた。だけど、
メドウズが『皆にもスリルを味わせてやろうよ』と言うので、僕も内緒にしようっと。(^^)」

(その日のハロルド王子の日記)
「○月♪日:人喰い鬼の正体…所詮伝説というのは大袈裟なものだ。でも、
もしかすると僕達の知らないところで宇宙からの生命体が息づいているのかもしれない。
明日からもっと観測に精を出そう。ところで僕のペンギンルックには
まだまだ改良の余地がありそうだ。大臣にカラスと間違えられてしまった。
しかしそもそも…(以下まだまだ続くので略)」

(その日のメドウズ王子の日記…原文そのまま)
「○月♪日:きょお、人くいおにをやつけた。ことにしておく。あした、
みんなにじまんしよう。きゃしーに、めぐに、あんなに、じゅりーに、…
(途中で寝てしまったようである)」

(その日のリチャード王子の日記)…は、ない。まだ字が書けないのだ。
『もう、ひとくいおにはいないんだ。あにうえたちがやっつけてくれたんだ』
兄たちに貰ったお気に入りのテディベアやペンギンやトラのぬいぐるみに
囲まれて、彼は安心したようにすやすやと眠っていた。

小さな貴公子たちは、今度は夢の中を冒険しているのかもしれない。


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