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赤鼻のトナカイ

Written by まりんのママさん

1.サンタ村のキャンペーン

197X年、夏のサンタ村は、サンタ協会が発表した、新しいキャンペーンの噂で持ちきりだった。それは、“夢見る大人たちにもプレゼントを!”というキャッチフレーズで、20年間継続する予定ということだった。
まだ具体的にどんなものになるのかは決まっていないらしく、サンタ工房やサンタ郵便局で働く小人たちも、サンタ宅配便で働くトナカイたちも、はたしてそのキャンペーンがうまく行くのか、そしてそのメンバーは誰になるのかとあれこれ話し合った。そして秋になるころようやくそのメンバーが発表になった。

サンタはどうやら他の国から抜擢されたようだった。サンタ村のだれもその新しいサンタに会ったことが無かった。名前はフレディといって新しい企画にふさわしく、いままでのサンタの常識を打ち破る斬新な個性の持ち主のようだった。そりは3頭立てで、そりを引くトナカイにはブライアン、ロジャー、ジョンの3匹が選ばれた。3匹とも若くて賢く、そして何よりやる気があった。

ロジャーは金色の毛並みのキュートなトナカイ、彼の青い目はすぐ雪目になってしまうのでサングラスが欠かせない。ブライアンは黒い巻き毛の大柄で知的なトナカイ、星の動きに詳しくてちょっと朝に弱い。そしてジョンは栗色の毛並みに緑の瞳の静かなトナカイだったが、いつのころからか鼻が真っ赤に変わり、それがいやがうえにも目立っていた。ある年の夏、日光浴をしながら長い時間うたた寝をしてしまった為に真っ赤に日に焼けてしまい、それ以来元に戻らなくなってしまった、と言う噂だったが、ジョンが何も語らないので真偽の程はわからない。ただ、内に秘めた情熱をその鼻が表しているようにも見えた。
そして今日は、いよいよフレディサンタが村にやって来ることになっていた。

2.フレディサンタ

3匹はミーティングルームに集まって、だれがリーダーになってそりを引っ張ることになるのかを話し合っていた。“問題はそのそりだぜ!”サングラスをヒズメでもてあそびながらロジャーが言った。“新しいそりを買うんなら、やっぱフェラーリかポルシェだな。なんたって速いぜ!オーストラリアだろうが南米だろうがあっという間サ!とすると、リーダーは俺しかいないだろ、トーゼンさ!”
“いや、ちょっと待ってくれないか。一番の問題はそんなところにあるんじゃないと僕は思うな。いろいろな状況において的確な判断ができるかどうかが大事なことじゃないかと思うんだ。いや、やっぱりそれは二番目かもしれないな。もっと大事なことがあるかもしれない…そもそも北極と言うのは地理的に特殊な場所にあって、北極星が…”まだブライアンが言いたいことの半分も言わないうちに、バンと勢い良くドアが開き、サンタ協会の会長が見慣れない人物を連れて入ってきた。

“諸君、この人が新しいサンタ、フレディ君だよ。この企画が成功するように、仲良く力を合わせて働いてくれるよう、宜しく頼むよ。”白いあごひげに赤い服の会長は、そう紹介すると、じゃあと手を振って、さっさと帰ってしまった。3匹が、思わず角も落ちるほど驚いたことに、その人物ときたら、白いひげどころか黒い髪オールバックに撫で付け、黒い口ひげをたくわえていた。それだけでも、今までのサンタの常識を充分打ち破っていると言うのに、あのおきまりのサンタ衣装の替わりに、ぴったりとはりついた真っ赤なパンツに、上半身は白いジャケットとランニングシャツ、黒い胸毛がのぞいていた。

“なんて、サンタだ!”ロジャーが思わずヒューッと口笛を鳴らした。さすがのブライアンも呆気にとられてなにもいえずに目を丸くしていた。“やぁ、My deer!お揃いだね。君たちと組めてうれしいよ。遠慮なくフレディと呼んでくれ。僕は友達みんなにプレゼントを配るのが、なにより大好きなんだ。クリスマスが1年中続いたっていいくらいさ。世界中で、この仕事に僕ほどふさわしい人間はいない!というわけで、サンタ委員会が白羽の矢を立てたって訳さ。”
“うーん、でも、その格好は…いくら赤白の基本は守っていると言っても、あまりにも奇抜すぎるように見えます。サンタの伝統と言うものをこの際無視してもいいものでしょうかねぇ。いいとも言えるが、しかし一面ではだめだとも言えないでしょうか。それは、どんな視点でサンタ事業と言うものをとらえるかということに…”
“あぁ、きみがブライアンだね。”ブライアンの巻き毛にうもれた角をいたずらっぽくつつきながら、フレディサンタは言った。“この格好のこと?いいだろ?ほら、僕のお尻の格好をみてよ!僕は自分を一番魅力的に見せる格好はなんだろうといつも考えてる、新しいタイプのサンタなのさ。そして、きみがロジャーだろ?”
フレディサンタはしなやかな手でロジャーの首筋をぽんぽんとたたいた。“やぁよろしく頼むぜ、フレディ!ところで新車はフェラーリ?ポルシェ?”“残念ながら僕はぜーんぜん車に興味が無いのさ、My deer!外に止めてあるから自分で見て来てよ。”それをきいてロジャーはたちまち外に飛び出していったが、すぐにがっかりした顔で帰ってきた。“ちぇっ、いつものボルボだよ。つまらねぇなぁ”
“外車を買うほど予算が無かったんだね。ボルボでもいいじゃない。たくさん積めるし、丈夫だし…”今まで黙っていたジョンが口を開くと、フレディは“君の言う通りだね、ジョン”とにっこり笑ってジョンにウインクした。ジョンもつられて笑顔を返しながら、“きっと僕の鼻を見て笑っているんだろうな。”と考えていた。口にこそ出さなかったが、ジョンはこの鼻をとても恥ずかしく思っていた。フレディに見られていると思うといつにもまして恥ずかしく、ジョンはますます赤味の増したように見える鼻を隠すようにうつむいた。そんなジョンに気付いたのかどうか、フレディは“さぁリハーサルだ!”とさっさと外へ出て行った 。

3.そりのリーダー

“さて、そりのリーダーは誰なの?”とフレディが尋ねると“僕が、俺が”ロジャーとブライアンが同時に返事をした。
“OK!最初はロジャーで行ってみよう。”
3匹はロジャーを中心に配置につき、フレディサンタの合図を待った。“それっ!GO!”サンタの合図と同時にロジャーは勢いよく飛び出した。そのスピードに後の二匹はついていくのがやっとだった。
ロジャーが急にカーブを切って進路を変えると“ロジャー、そっちは嵐なんじゃないの?晴れた道で行ったらどうなんだい?”フレディが心配そうに聞いた。ロジャーはにやりと笑うと“靜か過ぎる道なんかつまらないだろ。こっちに行けばスリルがあって断然おもしろい。それに近道でもあるんだぜ。それっ風に乗れ!嵐に突入だ!”
そりは右に左に、上に下に進路を変えながら猛烈な風の中を突っ走った。ロジャー以外は目をつぶって、ただ一生懸命走った。やがてそりは急ブレーキをかけて、無事、サンタ村の広場に止まった。フレディは真っ青な顔で、“あ、ありがとう、君の実力は良くわかったよ、my deer...今度はブライアン、君がリーダーになってくれ。”と震える声で言った。そこで、今度はブライアンを中心にして3匹は配置についた。
“それっ、GO!”やっと元気になったフレディが合図をすると、そりはおもむろに飛び出した。しかし、分かれ道に来るたびに、どの道を通るのがもっとも適当かブライアンが立ち止まって悩むので、そりはなかなか目的地に着かなかった。ようやくサンタ村に帰り着いた時には、あたりはもうすっかり暗くなっていた。

フレディサンタはすっかり困っていた。荒々しい乗り物なんて大嫌いだったし、退屈するのも同じくらい嫌いだった。そのときフレディの目の中に赤く輝くまあるいものが飛び込んできた。ジョンの鼻が暗闇の中で温かい光を放っているのだった。“ジョン!君の鼻!”突然フレディに名前を呼ばれ、鼻のことを言われてジョンはあわてて、手で鼻を隠した。“あ、隠さないで。僕はその鼻が大好きさ、君の笑顔のように温かい輝きがある。ジョン、リーダーをやってみないか?”
“えっ?リーダーなんてトンでもない。僕はそういうのは性に合わないんです。そりが壊れたら修理するし、どんな道がいいのか相談されれば一緒に考えるけど、リーダーなんてとんでもないだめですよ。”
“大丈夫さ、ハニー。僕がついてる。きっとうまく行く。とにかくやってみようよ!”フレディが熱心に説得するので、しぶしぶ承知した3匹は、ロジャーとブライアンを両脇にして配置についた。もうすっかり夜も更けていたが、ジョンの光る鼻のおかげで、あたりが良く見えた。
“それっ!GO!”フレディの合図でそりは夜空に舞い上がった。やってみてすぐにこの方法が一番うまく行くことがわかった。フレディとジョンの息はぴったりで、フレディがちょっと合図を送るだけでジョンはすばやく進路を修正し、3匹の足並みも、リズミカルに良く揃った。ジョンの鼻はますます赤く輝きを増し、フレディが誉めるので、ジョン自身もそんな自分の鼻がちょっと誇りに思えてきたようだった。
“ところで、どんなプレゼントを配るのさ”3匹が口をそろえて聞くとフレディは白い歯を見せて笑い、“それは、これから僕たちで作るのさ、my deer!”と言った。

4.輝ける日々

その年のプレゼントは“夢見る大人たち”に好評だった。翌年には更にたくさんのプレゼントを配り、その翌年にはもっと配った。私たちのところにも配りに来て!と言う声は世界中からサンタ村に届き、プレゼント好きのフレディは精力的に出かけていった。
3匹もキャンペーンの成功がとても嬉しく、誇らしかった。フレディと今年のプレゼントをどんなものにしたらもっと喜ばれるか、どこに配りに行くべきかなどで、口もきかないほどの大喧嘩をすることもしょっちゅうだったが、しばらくするとまた集まって、プレゼント作りに精を出した。
また、3匹とフレディがそれぞれ違う方向に進もうとして、吹雪の中そりが立ち往生することもあった。しかし、それも皆が仕事熱心なために起こる問題の一つだった。
こうして、忙しく、輝きに満ちた日々は過ぎ、彼らのプレゼントをもらった者は皆、幸せになった。
そして、20年のキャンペーン期間が終わる日が近づいた。

4.さようならフレディ

20年の月日は、若くてはつらつとしていたトナカイたちを、すっかり落ち着いた大人に変えた。そして、あんなにエネルギーに満ち溢れていたフレディサンタも、ふと、とても疲れた表情を見せることがあった。だんだんやせてきたようにも見えた。そんなフレディに気付いて、ジョンは心を痛めていた。“ねぇフレディ、約束の20年がたって、僕たちの仕事も終わりだね。だけど、君が白髪のおじいさんになったら、ほら、ふつうのサンタになれるだろ?そしたら、また僕たちとプレゼントを配って歩かない?今度は“夢見るお年より”に、のんびり配ればいいじゃない。”
ある日、思い切ってジョンはフレディに言ってみた。
“そうだね、ハニー。それもいいかもしれない。でも、僕はふつうのサンタなんて真っ平サ。のんびりプレゼントを配るなんて。第一似合わないだろ、そんなの… でも、そう言ってくれてありがとう、うれしいよ。”そう答えるフレディの目を覗き込んで、ジョンは理解した。そんな将来なんてありえないことを。
“そうだね、君には似合わない…”

最後のプレゼントを配り終えると、フレディはサンタ村から姿を消した。現れた時と同じくらい突然に、さよならパーティもしないうちに、ひっそりとどこかへ行ってしまった。
村の誰も、彼がどこへいったのか知らなかった。サンタ協会は、フレディは自分の故郷に帰った、とだけ発表した。3匹のメンバーたちはしばらくの間、使い古したそりを眺めて、胸にぽっかり開いた穴をどうすることもできなかった。
そして、あんなに赤く輝いていたジョンの鼻は、いつのまにか輝きを失い、じょじょに黒い平凡な鼻に戻っていった。

ブライアンとロジャーは、いまでもときどき他の仲間たちとそりを引いている。まだまだ若いトナカイには負けない。
けれど、ジョンは、と言えば、たまに家族の群れを引き連れて、サンタ湖のそばを散歩しているのを見かけるくらいだ。噂では何かの拍子に、鼻が赤く輝き始めることもあるらしいのだが、そんなときジョンは困ったように苦笑いして、どこかに隠れてしまうそうだ。

         おしまい

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