History and background of the Legendary Deacy Amp
Article By Greg Fryer (extract from BrianMay.com 30 Jul 05)
『暗く荒れ模様の夜のこと。向こうに見えるは、勇敢だが裕福ではない音楽家。古きロンドン街の石畳に足を踏み入れたところだ。だが半リーグも行かぬうち、我らがヒーローは、素晴らしい光景に出くわした。驚くべきかな、一本の剣が石の中に・・・(以下略。申し訳ない)』・・・ゴホン、ゴホン、えー。
この有名な「ガラクタ置場のエレクトロニック・マジック」の発端は、あたかも「ボーイズ・オウン」(注:英国の少年雑誌)の冒険小説の一節から取ってきたような感じがするかもしれない。だが、まずはジョン・ディーコン、その後ブライアン・メイの手に渡ることになったちっぽけなアンプが、ロック界で「ディーキー・アンプ」として知られるようになったのは、実生活にありがちな、幸運なる偶然のなせる業だった。
ディーキー・アンプの起源
1998年7月、ジョン・ディーコンは、このユニークなアンプとスピーカー・ボックスを組み合わせた当時の状況を語ってくれた。
まさしくジョンはロンドンの街を散歩中に、そのサーキット・ボード(回路基板)を見つけたのだそうだ。1971年初頭、あるいは中旬のことで、フレディ、ロジャー、ブライアンと「クイーン」として演奏し始めた頃だったという。エレクトロニクスに関することは何でも体験したくてたまらない性分(実際、電子工学の学位取得の為に勉強中だった)のジョンの目は、とある工務店の廃棄物入れコンテナー(道路脇に設置されている大きめのもので、廃棄物を入れ、後からコンテナーごと運び去る)の端からぶらさがっているワイヤーに惹きつけられた。
ワイヤーはサーキット・ボードに取り付けられていた。回収したら何かに使えるだろうか? 好奇心に駆られたジョンは、そのボードを引っ張り出してきて観察した。 電池式のラジオかカセット・プレイヤーのものではないかと見当をつけていたが、よくよく調べた後で、小型の練習用ギター・アンプに役立ててみようと決めた(ジョンはベースだけでなくギターも弾くのだ)。
ジョンはこの新たに発見したサーキット・ボードを、置きっ放しにしてあった予備のブックシェルフ型スピーカー・ボックスに合体させた。ボードは2本のネジでスピーカー・ボックスの内部に固定され、質素極まりない制御装置だけを持つ完成品が出来上がった。
スピーカー・ボックスのリアパネルには、ギター・プラグの差込口が1つ備え付けられていた。アンプの電源は、2本の電池クリップから伸びたリード線(リアパネルから出ている)を、大型PP9電池に繋いでオンにする仕組みだ。その歴史の大半を通して、ディーキー・アンプがボリューム・トーンつまみの類を有していたことはなかった。ジョンによると、当初はスピーカー・ボックスの外側にだらんと垂れ下がる形でボリューム・コントロールを取り付けていたのだが、まもなくそれを丸ごと内部に固定することで、収まりが良くなったのだという。このモデルには、豪華な装飾などは全くないのだ!
「ごく普通のギターをアンプに接続してみると、少しひずんではいるものの、あたたかく心地よいサウンドが生み出されたんだ。でも鮮明さに欠けて、なんだかくぐもっていたけれどね」とジョン。しかしながら後に、このちっぽけなアンプのサウンドは変化を遂げ、クイーンのレコーディング時に欠かせない『鎧』のひとつとしての新しい使い道を得ることになる。
ある日、何かの拍子にジョンがこの練習用アンプをバンドのリハーサルに持って行き、ブライアンに見せた。「ブライアンは即座に身を乗り出してきたよ。とりわけ、例の革新的なハンド・メイドのレッド・スペシャル・ギターとトレブル・ブースター・ペダルに繋いで、サウンドを聞いてからは。見込みにピンときたんだろうな」
このギターとペダルによって、アンプの音は劇的に変化した。入出力共に増幅されたことにより、かなりひずんではいるが、明瞭で伸びやかなサウンドが生まれたのだ。それはまるでバイオリンやセロ、はたまたボーカルのようにも聞こえた。レッド・スペシャルとトレブル・ブースター、ディーキー・アンプが織り成す、よく響き、ぎゅっと凝縮されたひずみ音はとてもユニークで、その当時の多くのギター・エフェクトやアンプからの典型的な固い「のこぎり波」サウンドとは一線を画していたのだとジョンは言う。
一緒に仕事をしていたレコーディング・エンジニア達も、スタジオでのアンプの使い勝手の良さを好んでくれたのだそうだ。ブライアンのVox AC30アンプのエキサイティングかつダイナミックなサウンドはかなり録音しづらいのだが、このアンプは制御しやすかったのだ。
ジョンのちっぽけなアンプは「ディーキー・アンプ(Deacy Amp)」として知られるようになり、ブライアンの独創性豊かなマルチ・トラック「ギター・オーケストレーション」に使用され、クイーンのアルバムに定期的にフィーチャーされるようになった。ギター・オーケストレーションは、各ラインごとに、非常にきめ細かな組み立てがなされていた(「オペラ座の夜」の『グッド・カンパニー』などでのより複雑な曲では、まさに音符ごとに)。ディーキー・アンプは一見、非常にシンプルな器材なわけだが、ブライアンがささやかなロック史のために生み出した幅広い創造的な使い道の数々は、まさに注目に値する。
ディーキー・アンプは、時にはブライアンのVox AC30とペアで使われることもあったが、通常のレコーディング時には、マルチ・トラックのギター・オーケストレーション用に単独で使われていた。ブライアンは、ディーキー・アンプのサウンドの融合のさまを、他のどのアンプよりも「シンフォニック」だと表した。これがAC30となると、なかなか同じような効果は得られなかったのだ。
ディーキー・アンプのアルバムにおけるデビューは、「クイーンII」(1974年3月リリース)の『プロセッション』および『フェリー・フェラーの神伎』である。
このアンプの使用例としておそらく一番良く知られているのは、1975年の「オペラ座の夜」での『ゴッド・セイブ・ザ・クイーン』だろう。また、珍しい例としては、同アルバムの、トロンボーンやらクラリネットなどがひしめき合う、まるでジャズ・バンド・サウンドのような『グッド・カンパニー』かもしれない。
伝説的ディーキー・アンプは、今日も元気に、ブライアン・メイのレコーディング・スタジオにおいて重要な位置を占めている。
(以下略)