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JOHN DEACON Rhapsody

Queen Of The World 第1章
クイーン・ミュージックを陰で支える、その名ベース・ラインを検証!


Guitar vol.4 autumn 1994 rockin'on 91
(By 和久井光司/GiGS : ギター日本語版 vol.4 94年秋)

フレディ・マーキュリー&ブライアン・メイ…これまでこの2人については様々な角度からインタビューや見解がなされてきた。あまりに個性的、かつ楽曲に於いても非常に目立つポジション/役割に位置していただけに、クイーンを語る上で両氏にベクトルが集中していたことは当然のことと言えるだろう。しかしその一方で、それらの優れた楽曲群をよりタイトなものにしていたのがジョン・ディーコンであったことは、あまり知られていない。ここでは彼の、シンプルにして重要なベース・ラインを検証してみよう。

SON & DAUGHTER by B.May ・CD TIME:0′01″〜 0′19″
YESのテクニカル+ZEPのヘヴィさが融合したハード・ロック・プレイ
   1stアルバム・リリース当時、ジョンは「イエスのクリス・スクワイアが好きだ」というコメントを残している。ブリティッシュ・ハード・ロック・ナンバーと言えるこの曲は、そのクリスのテクニカルな部分+レッド・ツェッペリン(ジョン・ポール・ジョーンズ)のヘヴィな部分を融合させたベース・プレイの1つとして挙げられるが、アルバムをよく聴くと、ベースがギターやドラムよりも引きずっていないことが分かる。譜面には表わし切れない微妙なタイミングではあるが、アメリカン・ポップ・ミュージックをこよなく愛する彼らしさは、こんなヘヴィな曲にも独特の“間”となって表わされている。
   またロジャー・テイラーの言葉によれば、このアルバムは全体を通してドラムを敢えて軽めでスカスカな音にしているという。そういったサウンド・メイクの中にありながら、このようなヘヴィな曲も決して物足りなさを感じさせないのは、実はジョンの手腕によるところが大きい。彼がロジャーを補って余りあるヘヴィ・サウンドを打ち出しているからに他ならず、しかもライヴでは1人で、このヘヴィ・リフを再現している(アルバムではブライアンとのダブル・トラック)。
BOHEMIAN RHAPSODY by F.Mercury ・CD TIME:0′49″〜 1′09″
ヴォーカルとの“会話”を意味するスライドがポイント
   最大のシングル・ヒットとなったこの曲は、その後アルバム『A NIGHT AT THE OPERA(オペラ座の夜)』に収録。美しいコーラスの導入部からピアノのイントロ、文句無しのメロディーと歌、敢えてオペラに徹し切った展開部…と、もう、これでもかという勢いでフレディの才能が爆発したナンバーでもある。非常に派手な印象のある曲だが、実は1人1人のプレイは至ってシンプルであることにまず注目。
   [コーラス]→[ピアノ]→[ベース]の順で加わりながら進行していくイントロ部分は、ベースも譜例ずら通りシンプル極まりない。しかしこのベース・パートの最も注目すべき点は、6小節目2拍目の絶妙なタイミングで成されるスライド・ダウン。単にF音を弾いた場合を想像してもらえれば分かると思うが、このスライド・ダウンによってまるでフレディのヴォーカルに答えるかのような演出が成され、しかも次に続く流れをよりスムーズなものにしている。加えて、最後のステージまでオリジナル・ヴァージョンに忠実に演奏していたのは、このスタイルが完璧であったからに他ならない。練りに練られた無駄のないアレンジをきかせた見本、とも言える、ロック史に残る名演。
YOU AND I by J.Deacon ・CD TIME:0′07″〜 0′14″
押し引きのコントラストが重要なメロディック・ライン
   「BOHEMIAN RHAPSODY」に続くシングルとしてリリースされた「YOU'RE MY BEST FRIEND」の作者として注目されたジョンが、『A DAY AT THE RACE(華麗なるレース)』で発表した自作ナンバー。このカラッとしたポップな感覚はジョンの真骨頂とも言えるが、フレディのヴォーカル、ブライアンのギター、ロジャーのドラム、全員のコーラスのコンビネーションも抜群で、バンドがまさにガップリ四つに組んでいる感があり、実に小気味良い。
   自作のナンバーがどんどん変化していく様が嬉しかったのか(!?)、ジョンのベースもいつになく派手で、メロディックなラインを奏でている。しかし、ハイ・ポジションでプンプン鳴らす(ブンブンじゃないところが彼らしい)勢いはあっても、決してビートからハミ出さず、オケの中に埋めていくラインと立たせるラインのコントラストを見事に打ち出している点が、技術的に云々ではなく、音楽的に非常に巧いプレイだと言える。ヴォーカル・メロディーとは全く別のアプローチでベース・メロディーが成立している点にも注目すべきで、これだけのメロディーが書けるのなら、是非ソロ作も出して欲しいのだが…。
ANOTHER ONE BITES THE DUST(地獄へ道づれ) by J.Deacon ・CD TIME:0′00″〜 0′17″
[楽曲アレンジの核・その1] ブラック・ミュージックの影響が出た16ビート
   ヘヴィ・ベースを主体としていたこれまでのプレイから、次第に16ビート/シャッフル系が顔を覗かせるが、その過渡期と言えるのがまさにこの時期。シックにインスパイアされたというこの曲は、かねてからブラック・ミュージック/R&Bのベース・プレイに傾倒しつつあったジョンの興味が露呈された代表ナンバーと言える。加えてベース・リフ/ラインが楽曲アレンジの核となっているため、ベース・サウンドにもかなりの気が配られている。譜例2回目のリピート部がそれで、1回目は単なる指弾きのソフトなラインとなっているが、2回目以降はピック弾きのようなアタック感を出し、更に各音ド頭には音が被せてある感じがある。アタックのタイミングが微妙にずれていることから、恐らくマニュアルでダビングされていると思われるが、敢えてリズム・マシーンのようなサウンドでプレイされたロジャーのドラムと相まって、非常にクールな印象を打ち出し、リズム隊を恐ろしくタイトなものに仕上げている。本来ありがちな「全員でグルーヴを出す」という方法論とは全く逆の形でアプローチされた点に於いて、シックとクイーンの共通項が見い出せる曲でもある。
UNDER PRESSURE by F.Mercury/B.May/J.Deacon/R.Taylor ・CD TIME:0′00″〜 0′55″
[楽曲アレンジの核・その2] 無機質なシーケンス・プレイ
   デヴィッド・ボウイとの共作/共演のこのナンバーも、前述の「ANOTHER ONE BITES THE DUST」同様、イントロから繰り返されるベース・リフが楽曲アレンジの核となっているプレイ[その2]。恐らく全員でスタジオに集まってから作曲されたのだろうから、実際このメイン・ベース・ラインを誰が考え出したのかは定かでないが、まるでシーケンサーに打ち込んだ無機質なフレーズが、この曲の総ての方向性を決定づけるほど重要な意味を持つことだけは確かだ。
   この17回ほど反復されるシーケンス・プレイは、一体楽曲アレンジにどういう影響を与えているのか? イントロ部分で言えば、ハンド・クラップ、チャイミーなピアノにブライアンのアルペジオ…といったシンプルな味付けが、ベースが単調かつ機械的なだけに、より“効果”として強調され、一種独特の空間を演出することに成功している。またフレディとボウイがそれぞれ得意なメロディーを歌う展開部から、再びテーマ部分へ戻る収束の仕方も、結果的には展開部をより強調し、尚かつテーマ部分を印象的なものとした構成となっているのだ。ベースを核としたバンド・アンサンブルを聴かせる、という点に於いて優れた作品。
I WANT TO BREAK FREE by J.Deacon ・CD TIME:0′41″〜 0′58″
[楽曲アレンジの核・その3] ベースという楽器の“声域”を活かしたプレイ
   こちらも楽曲アレンジの核となっているプレイ[その3]。ヴォーカルが始まると同時に繰り返される、ラインそのものはシンプルなベース・リフはこれまで同様重要ではあるが、ここでの特筆はベースという楽器の特性を非常によく活かしている、という点。本来ならこの単音リフ、ギターでプレイしても良さそうなものだが、この曲ではギター本来の最低“声域”から半音下がったE音以下の“声域”でプレイされている。現在のロック・ギター界では6弦半音下げはおろか、2音下げなんて言うのも珍しくないが、この深みのあるファットな音色はベースならでは。ポップな曲調に対し、ギターには決して出せないヘヴィさと厚みで楽曲をしっかりと支えている。つまりベースという楽器の特性と意外性を大いに発揮したプレイ、ということが言えるのではないだろうか!?
   これは、本来「派手なギター/ヴォーカルのバックに回る」というロック・ベースの概念から外れたところにジョンのベースに対する考え方がある、ということを如実に物語っており、彼の「楽器としてのベース」への捉え方が非常に分かりやすく表現されている代表的ナンバーと言える。

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