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MUSIC LIFE 82年12月号

(インタビュアー:東郷かおる子)

10年目の王者「クイーン」

5度目の来日を果たしたクイーン。今回、日本では初めて野外コンサートを行うなど、あいかわらず野心的なところを見せた彼らは、やっぱりロックの王者だった。
MLはそんな彼らを福岡でキャッチ。4人との独占会見を行った。忙しい取材攻勢の中、MLのためににこやかに姿を見せてくれたロジャー、ブライアン、ジョン、フレディの4人は、今までのこと、これからのことなどを、すべて語りつくしてくれた。2時間以上にも及んだこの独占インタビュー、彼らの絆の強さをあらためて知った会見でもあった。

★"アンダー・プレッシャー"は努力のたまもの

――今回はスケジュールにかなりのゆとりがあるようですが、オフの時に、特に行きたいところでもあるのですか?

ロジャー:また京都に行ってみたいんだ。初来日の時に行ったんだけど、ファンが集まってしまって、ゆっくり見学できなかったから。

ブライアン:子供が一緒(今回のツアーでは、ブライアンのみ夫人と2人の子供達を同行)だから、子供が喜びそうなところへ行きたいね。動物園とか公園とかおもちゃ屋さんとか。

――いいパパですね(笑)

ブライアン:僕自身はお寺や庭園を見てまわりたいんだけれどね(笑)庭いじりが好きだから。

――ところで今回の機材は、ライトなども含めて75トンと聞きましたが、すごい重さですネェ。

ジョン:ああ、すべて新しいセットなんだ。ヨーロッパ・ツアー、アメリカ・ツアーそして今度の日本公演とこのセットでやったんだ。なんせ75トンだろう?空輸できずに船で運んだんだよ。この日本公演のあとは倉庫にしまっておくつもり。(ニコニコ…)
    ☆この「ニコニコ」…倉庫にしまうってのはジョークなのに誰も気づいてくれなかったテレ笑いなのか?

――ところでデトロイトでのコンサートでは「ホット・スペース」からの曲を、そんなにやらなかったようですが…。

ブライアン:エッ!? そうだった? デトロイトでは多くプレイしたほうだと思うけれど…。

ロジャー:"アンダー・プレッシャー"、"ボディ・ランゲージ"、"アクション・ディス・デイ"、"コーリング・オール・ガールズ"の4曲だったかな。

――日本では、それに加えて"バック・チャット"や"プット・アウト・ザ・ファイア"もプレイしていましたね。プレイする曲は決められているんですか?

ブライアン:いや、僕らはいつも曲目を変えるようにつとめているんだ。今回のツアーも、毎回変えたつもりだよ。

――"アンダー・プレッシャー"をレコードで聴いた時ステージでやるのは難しいと思ったのですが、コンサートを観て驚きました。すばらしいですね! ほとんどパーフェクトだと思いました。

ブライアン:レコードよりもヘヴィになるように練習したんだ。きつかったけれど、うまくできるようになるには努力が必要だからね。僕もステージのほうが好きだよ。

フレディ:そう、それに僕達は初めからできると思っていたよ。一生懸命、練習もしたし。だからこそできたんだと思う。どんな曲に関しても練習は必要だね。

――フレディ、あなたは特別なヴォイス・レッスンを受けたことがあるんですか?

フレディ:いや、ないよ。でも学生時代から、とにかく歌うことは好きだったね。ピアノのレッスンも9歳の時かな…ずっとしていたんだ。僕は思うんだけれど、誰でも歌うことを愛していれば、特別にトレーニングしなくても、うまくなるものだと思うよ。(☆隣にいる人に言い聞かせて欲しい)もっとも、オペラの場合は別だけどね(笑)
★去年の南米ツアーは素晴らしい体験だったよ

――ところで去年でしたっけ? サウス・アメリカ・ツアーが前代未聞の大成功だったそうですが…。

(4人、口々に"いやー、すごかったなー"と盛り上がる。)

ジョン:とにかくファンがすごかったよ。もちろん僕達もすごく楽しかったし。他のバンドも南米に行くことはあるらしいんだけれど、小さなホールやクラブでしか演奏しないらしいんだ。確かポリスがブラジルへ行ったと思うけど、とにかくあんなに大規模なロック・コンサートは初めてのことだったからね。(☆ライバルに差をつけました的発言)

ブライアン:うん、ほんとに素晴らしかった。初めて日本に来た時のようなエキサイトメントがあったよ。

フレディ:僕達にとってもブラジルでの公演は初めてだったし、ブラジルの人達にとっても、僕達がいったいどんなバンドなのかまったく白紙の状態だったわけだから、すべてのことに対して、どうしていいのか慣れていなかったみたいだね。

ロジャー:そして、それがまた新鮮なショックだった。

フレディ:(うなずいて)本当に僕達が今まで行ったコンサートのうちで最も大きなイベントのひとつだったことは確かだね。とっても素晴らしくて、僕達も予想に反して驚いてしまったんだ。僕達がいつも通りのことをしていても、彼らの身体に伝わるものは、まったく新しいものなんだ。僕等の音楽をどう感じようとルールはないんだし、彼らの反応はとてもナチュラルだったよ。

――ブラジルで記者会見をした時には、3000人の人が押し掛けたそうですね。

ジョン:そうなんだ(笑)僕ら、にっちもさっちも動けなかったんだ。

――メキシコでのコンサートでは、かなりクレイジーなオーディエンスがいたそうですけれど。

ロジャー:もうヒドイ目にあったよ!!(笑)どのくらいの人が靴を投げたのかなあ。

ジョン:僕なんか2度も靴が当たったよ。しかも、後で靴がバラバラになって分からなくなると困ると思ったのか、ちゃんと靴ヒモで1足の靴を結び付けてあったんだ!! (一同大爆笑。ジョンも爆笑)
    ☆靴に当たったのも可笑しいが、そんなときでも詳しく観察しているところが皆の笑いを誘ったのだろうか。

ブライアン:靴以外にもテキーラとか、いろんなものが飛んできたね。みんな酔っ払っていたんだ。メキシコ人はエキサイトするとすごいんだ。まあ、いい経験だったよ。

――ステージに立っていて、恐怖を味わったことなんかありますか?

ロジャー:僕はないなァ、。ドラムのことで精一杯だから(笑)

フレディ:僕はむしろ考えないようにしているよ。そんなことを考えていたら、ステージを終えることができないからね。だって事故なんて、起こる可能性は大いにあるわけだし。会場で多くのケンカや口論が行われているのを知っているだけに、警官の姿を見ると、ふと不安になっちゃうんだ。

ブライアン:幸運なことに、クイーンの場合は今まで事故はなかったけれど。警備には一番の注意を払っているからね。3年前に、フーのコンサートで11人のファンが死亡した事故があったけれど、僕達はどんなコンサートでも、こんな事故が起こらないように望むよ。

ロジャー:最近、日本のアイドル歌手のコンサートで事故があったってきいたけれど、本当?(シブガキ隊らが出演した豊橋のコンサートのこと)

――たったひとつの入り口に、ファンが押し寄せたんです。

フレディ:そういえば、初来日公演の武道館の初日も、ステージが始まるやいやなステージ前に人が押し寄せてきて、すごかったな。

ブライアン:そう、あのコンサートには、ひとつの恐怖感があったね。

――そうですね、あれは本当にすごかったですよ。もう、モミクチャで。でも日本のファンもずい分成長したと思います。

ブライアン:そうだね。ファンの人達も自分自身をコントロールすることを学んだと思うよ。来日するたびに大きなショック――もちろんいい意味でね――を受けるよ。

ロジャー:うん、より音楽的に理解されてきたと思う。
★「ホット・スペース」は僕らのチャレンジだった

――ところで最新アルバム「ホット・スペース」のことについて聞きたいのですが、あのアルバムには多くのファンが驚いたんですよ。

ブライアン:アメリカでもそうだったよ。でも、まず言っておきたいのは、僕達はいつも前向きに変わるようにつとめているっていうことなんだ。どのくらいの人達がショックを受けたかはわからないけれど、僕達のサウンドが変わったことに対して、僕達を嫌いになっても、別にかまわないと思うんだ。すべては経験だからね。

ロジャー:(うなずきながら)保守的なファンは、どこにでもいるのさ。ファンは僕らのサウンドが変わってほしくないと思っているのかな?

フレディ:ファンが「ホット・スペース」を聴いて驚いたということは、想像できたよ。でも、僕自身としては、うまくできたアルバムだと思っている。僕達は10年間もクイーンとしての活動を続けて来た。そして、そろそろ違う音楽的方向へ向かってもいいんじゃないかと感じたんだ。僕達は、常に僕達のやりたいことに挑戦してきた。僕自身、それはとても素晴らしいことだと思っている。常に同じタイプの音楽を創りあげていれば、トップにいることができるかもしれない。でも、僕達には求める音楽が次々に浮かび上がって来るんだ。それで、僕達は徹底的にやってみたのさ。その新しい試みが、一体どのように受け入れられるかわからないけれど、僕達は挑戦したんだ。もちろん、やってよかったと思う。こういうことは、常に僕達が目指し、やってきたことなんだ。

ジョン:僕は全然気に入ってないよ! (一同爆笑)いや、それは冗談だけれど、4人の独自の個性を持った人間が、クイーンというバンドのメンバーとして、いろいろなアイディアを交換しあった今回のアルバムは、僕は良かったと思っているよ。

フレディ:人々は、それぞれのグループに対して自分の音楽思考を築き上げてしまうと、それ以降の変化を受け入れないんだ。デビュー当時から僕達を知っている人達は「クイーンはこんなことをするのか!?」と感じるだろうし、現在のクイーンしか知らない人は「これがクイーンなんだな」と何のこだわりもなく受け取ってくれると思うんだ。今まで僕達が手掛けた音楽市場では、僕達がどんな音楽性を持っているのか知っている人達ばかりだったから「これがクイーンなんだ」と、アルバムを発表すれば、多少時間がかかっても受け入れられたものだけれど、今回は状況がまったく違っているからね。でも、本当に僕達は常に新しい試みをすることに対して、すごく満足しているよ。気に入らないサウンド、音楽は、絶対にレコーディングしない。ベストな曲につくりあげるまで、何度でも意見を出し合うんだ。

――「ホット・スペース」のアイディアは誰が出したんですか?

ブライアン:基本的にはジョンとフレディかな。2人ともリズム&ブルースが好きだからね。

ジョン:もちろん、僕もアイディアは出すけれど、それがすべてじゃないよ、絶対に。 曲の出だしや、ヴォーカルのメロディには、とても興味があるけれどね。
    ☆さりげない会話にも「バック・チャット」以来の確執(もっと前から?)が込められている二人である。

ロジャー:スタジオに入ってから、自然にアイディアが浮かんできたね。

――アルバム・ジャケットは、かなり大胆な色使いでしたけれど、何か意味でもあるのですか?

フレディ:あれは僕がデザインしたんだ。メンバー一人一人の顔を描き上げたのも僕さ。とにかく"ホット"なイメージを出したくて、原色をつかったんだ。

ロジャー:素朴な色でいいよ。僕としては、あんまり好きじゃないけどネ。(一同爆笑)
★解散だって!? クイーンにはありえない!

――ところで、クイーンも10周年を迎えましたネ。10年間、グループを保っていくのは大変だったと思いますが、正直な話、今までにクイーンが解散するような危機はありましたか?

フレディ、ロジャー:断じてないよ!!(即座に答える)

ブライアン:僕はいつでも考えているよ。(一同爆笑。他の3人が、"オイ、たのむよ〜")

フレディ:確かに結成して5年間くらいは、いろいろな壁にぶちあたって考えさせられたりしたけれど、それを乗り越えると、メンバーのことを家族の一員のように考えるようになるんだ。これから先は、もっと楽になるんじゃないかな。

ブライアン:そうだね。最近、どうしてそんなに長い間4人でやってこられたのかってよく聞かれるけれど、僕らはお互いに、どうやったらうまくやっていけるか、満足できるか、その方法を知っていて、そういうコンビネーションがあるから、いい道を考え出すことができると思うんだ。

――最近、イーグルスやドゥービー・ブラザーズ、フーといったバンドが解散しましたけれど…。

ジョン:エーッ!? フーが解散したって!? ウソだろ?僕は信じないよ。絶対うそだよ。千円賭けてもいいよ。
    ☆千円というあたりが庶民的である。しかし彼にウソを言ってどうなるというのだろう。

――でも、先日ニューヨークのシェア・スタジアムで解散コンサートをしたんですよ。

ジョン:うそだ〜。ちょっと前にピート・タウンシェンドに会ったけど、そんな、解散だなんて冗談に決まってるよ。きっと、また突然やり始めたりするはずさ。
    ☆こっちがびっくりするくらい、フーの解散にこだわるジョンである。ただの一ファンみたいな感覚か。次のブライアンのクールな口調が対照的だ。

ブライアン:まあ、フーの話は別として、ドゥービーとイーグルスの解散は、ある意味で、サイクルのピリオドなのかもしれないね。ビッグな成功を得たグループの結末なのかも…。グループは、いつでも音楽を創造し、維持し、バラバラになっていく…でも、僕達は団結するようにつとめているよ。

ロジャー:ただプレイするだけでなく、どのくらい長くグループを保てるか、どのくらいそれぞれの役目を保てるか…そういうことが大切なんだ。解散は、僕達に関しては考えられないな。メンバー・チェンジもしたくない。たびたびメンバー・チェンジをするバンドがいるけれど、僕個人としては、すごく失望しちゃうね。メンバー・チェンジをすれば音楽性も変わってくるし、ショウも違ってきてしまう。なぜ、ひとつのものに団結できないんだろう。本当にバカ気ていると思うよ。たとえば、リッチー・ブラックモア――彼の場合、どのくらいキャリアを持ったバンドなんだろうって考えちゃうんだ。そんなに毎度、毎度メンバーを変えたら、グレイト・バンドは築けないよ、絶対に。ファンにしたって、毎回違うイメージを持つだろうし…。
★まだまだやりたいことだらけ

――グレイト・バンドゆえの孤独を感じることはありませんか?

ブライアン:う〜ん、そんなにはないな。もともとロック・シーンに、そんなにたくさんの友人はいないんだ。もちろん親しい人はいるけれどネ。そんなに社交的な人間じゃないんだよ、僕は。だから、時々すごく不思議な気持ちになるんだ。あまりにも自分が分離されているみたいで、すごく年をとった気分になる。エディ・ヴァン・ヘイレンが言っていたんだけれど――彼は常に新しい何かを求めているけれど――過去の栄光の一時期に"これから自分は一体どうなるんだろう"と考えることがあったと言っていたんだ。彼の気持ちは、すごくよくわかるよ。とにかく大切なことは、初心を忘れないことだね。

フレディ:欲しいものがすべて手に入った時でも、何も感じない時があるんだ。これが一体何なのか、僕自身もよくわからないんだけれど。でも僕は、すべてを手に入れたとは思っていないよ。まだまだやりたいことはあるし、すべてが終わったなんて思っていない。デヴィッド・ボウイをレコーディングした時、もっと他のアーティストとレコーディングしてみたいと思ってね、多分来年(83年)の1月に、マイケル・ジャクソンとレコーディングすると思うよ。それに今、ドナ・サマーの曲を書いているんだ。とてもいいものになると思うよ。

――曲作りに関してなのですが、たとえば歌詞に関して以前は神話などをモチーフにした叙情的なファンタジックなものが多かったように思うのですが、最近はもっとリアル(現実的)になっているように思うんです。

ブライアン:当然、音楽のスタイルにあわせて、歌詞も変わると思うんだ。

フレディ:それに僕は、いつも前とは違った曲をつくろうと努力しているからね。いつまでも"ボヘミアン・ラプソディ"みたいな曲ばかりではないんだ。曲に関しても、別に山のふもとへ行かなければ曲ができないわけでもないし…。僕は一度だって"曲を作らなきゃ"なんてジックリ考えたことなんてないんだ。ピアノの前に座れば、インスピレーションで弾いていくし…。

――クイーンは、サントラ盤、ナンバー・ワン・ヒット、サウス・アメリカ・ツアーの成功と、およそロック・バンドとして考えられることは、すべてやってしまったと思うのですが、これから先、やってみたいことは?

ブライアン:クイーンとしては、すべてをやってきただけに、別の分野のことを考えるのに苦労するよ。同じことはできないからね。同じ時間のくり返しより、考える時間をつくるため、オフをとりたいね。新しい視野を広げたいし、知らないこともいっぱいある。具体的には中国とソ連に行きたい。そして"アンダー・プレッシャー"のように、外部の人間とも仕事をしてみたいね。メンバーのそれぞれが満足を得られるような。

ロジャー:そうだね、リラックスする時間が必要だよ。10周年ということで、クイーンも転換期だと思うし。

――日本公演のあと、長期のオフをとるのですか?

フレディ:うん、そのつもりなんだ。10年目としての区切りが必要だと思うんだ。僕個人としても、ゆっくり考える時間が欲しいんだ。今まではあまりにも時間に振り回されて、ハードな毎日だったし。時間を気にせずに、ゆっくり歌を書きたいね。

ジョン:6〜8ヶ月の休暇になるかな? その期間中にレコーディングの予定はないけれど、レコーディングの時期が来た、と僕ら4人が感じれば、始めるかもネ。

ロジャー:僕はオフの間にソロ・アルバム第2弾をレコーディングする計画があるんだ。

ジョン:僕はソロ・アルバムはダメ。だって歌えないんだもん(笑)
欄外に載っていた発言の数々
  • "バック・チャット"は、ステージでプレイするには、すごく難しい曲なんだよ。
  • クイーンのターニング・ポイントになったアルバム?…そうだな、「オペラ座の夜」と「ゲーム」かな。

  • かなりメンバー間に軋轢があった時期だと思うが、ジョンの茶目っ気を他の3人が微笑ましく眺めている様子も伺えて、4人揃ったインタビューは良いなと実感する。



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