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音楽専科79年

「もし僕がいなかったら、このグループはまとまらないだろうな」
いま明かされた"陰のリーダー"、ジョン・ディーコンの問題発言!!

(インタビュアー:星子誠一)

フレディ・マーキュリー、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、そしてジョン・ディーコンと、日本のクイーン・ファン、いや全世界のクイーン・ファンの中でも無意識に位置付けされているのではなかろうか。何故だろう……ステージで目立たないからか、あまり曲を書いてないからか。僕の知る限り、プレス・インタビューにも単独で答えたという記憶はない。本誌でも、デビュー以来、ジョンの単独インタビューだけは取っていなかったのだ。そこで、あえてジョンにインタビューを試みた。クイーンというグループを、一歩離れた所から見ている観があるジョン――クイーンの新しい側面がうかがえるかもしれない。

4月16日。ここは新宿駅近くの某ホテル。さぞやファンの女の子達で大変だろうなと思いながら入ると、驚いたことにほとんど見当たらない。かなり情報管理が厳しいんだろう。31階、深海の底のように静まりかえった廊下を伝って、奥の控室に入った。待つこと、10分――「ハロー!」、あのニコヤカな微笑を浮かべてジョンが入って来た。サラリーマン風の短い髪、チェックの半袖シャツ、ありふれた紺のジーパン――とてもミュージシャンとは思えない。どうみたって……よそう、(☆よさないではっきり言えばいいのに)話し合ってる内に彼の人柄なり、考え方が分かってくるはずだから。

――3年ぶりの日本の印象はどう?かなり変わったでしょ。

ジョン:客層が凄く違ってきてる。つまり、3年前は来日ミュージシャンも少なかったので、我々に対して物珍しさがあったけど、今は色んなグループが次から次と来てて、我々クイーンもそのたくさんのグループの中の一つといういうような捉え方に変わってるね。
我々の音楽がこの3年間で成長したのと同じように、ファンの人達も成長してきたのだと思う。だから、態度にしても理解の仕方にしても大きく変わったね。だから当然、我々の対処の仕方も変わってきたんだ。
デビューの頃は、我々も長い髪にメーキャップで特徴を出してたりしたけど、今は全くそうする必要もない。例えば、ジャパン。今、日本で凄く人気があるようだね。でも、昔の我々と同じ感じで捉えられているんだろうな。


    鋭い観察力だ。彼に対する間違った先入観――ジョンって、あまり自分の意見を持っていないんじゃないか――が一気に払拭された。それにしても、3年は長すぎる。

――ファンは待ちこがれてたと思うよ。

ジョン:うーん…(考え込んでしまった)
    ☆正直に言えないときはたいてい考え込む。

――忙しかった?

ジョン:そう、忙しかったから(笑)実際、ヨーロッパやアメリカでの確立を狙ってたし、その為のツアーの合間のレコーディング――ほとんど休みなしだったな。あと、最初1年間でたて続けに2回来たから、次はある程度期間をおいてから来ようと思ってたんだ。

――クイーンは我々日本のファンが最初に見つけたと自負してたわけだけど、それがどんどん自分達の手から離れて大きくなっていったことに、嬉しく思う反面、寂しくもあったんだ。忘れられたんじゃないかなってね。

ジョン:そうじゃない! 決して忘れてたわけじゃない。我々はいつだって戻って来る!! ただ、世界は広いんだ。それらを一つ一つ廻っても、3年はかかるんだよ。

――じゃ、クイーンにとって日本ってなに?

ジョン:ベリー・スペシャル・カントリー! ここに来ると、他の行き慣れたヨーロッパやアメリカと違って、全く違った感じがする。ここに来ることはずっと望んでいたし、楽しみにしてたんだ。

    予測してた答えとはいえ、こうまで言われると気恥ずかしくなる。でも、本音が出るまで、もう少しイジメてみようかな。

――ロック・マーケットとして重要視してるわけでしょ。

ジョン:例えば、今このホテルには我々の外に、ジャーニー、ボブ・ウェルチと3組も来てるよね。大阪には、ボブ・マーリィがいたし、凄く交差している。実は3年も経ってるので、とても心配だったんだ。我々はぽっと出の物珍しさでは済まないからね。でも武道舘も大成功だった。これからもそうあって欲しいけど、彼らは我々以外のグループにも、もっと目を向けて行くだろうな。

    この3年間でも成長は、表面的な成功のみならず、内面的にも著しいようだった。"世界のクイーン"になった今、その余裕と自信が体中からあふれ出ている。その自信がジョン・リードからの独立となった。

★ミュージシャンといえども金儲けをしなくちゃいけないんだ

ジョン:最初トライデントにいて、それからジョン・リードの所へ行ったわけだけど、我々はこの世界ではかなり長い。すると当然、自分達は何をやるべきかという事が自ずと分かってくる。それまでは、がむしゃらにつっ走るだけだったけどね。自分はどんなアーティストなのか、どんなレコードを作ればいいのか、どういう所にツアーすべきか、どういうスタジオを使うべきか、どういうプロデューサーが我々を理解してくれるのか等、経験をつめばつむほど分かってくるんだ。ユニークかもしれないけど、逆に我々からすれば、4人が協議して決めるということは、理論的発展の方法だと思う。
結局、マネージャーにしても最終的には自分のことを考えるのさ。本当にグループのことを考えるのは我々メンバーなんだよ。


    そう、76年以来、クイーンは一切のマネージメントを自分達の手でとりしきっていたのだ。その分、気分的には楽になったが、各人の責任は重くなったようだ。で、ジョンの役割は――。

ジョン:多少は関わりあいながらも、それぞれ4人の得意な分野がある。当然、音楽は4人が分担するわけだが、僕は特に、ビジネスの面が才たけてると思っているよ。ミュージシャンというのは、どうしてもそういうところが欠落しがちだが、やっぱりミュージシャンといえども、金儲けをしなくちゃいけないんだから、僕はその面を担当しているんだ。例えば、我々の弁護士がレコード会社なんかと色々交渉するよね。それが我々に伝わってきた時、僕が中心になってその条件に対する助言とか、まとめたりするわけ。
    ☆非常にクールでリアルな発言。

――そういう才能は素晴らしいと思うけど、音楽面で悪影響を与えないかな。

ジョン:ないね。ビジネスと音楽は全く切り離して考えられるから。しっかり割り切ってやってるさ。

    少し鼻にかかったハイ・トーンの細い声だが、凄く分かりやすい。そして優しい。( ☆この発言内容で「優しい」と思わせるところが彼の人徳かもしれない )それにしても、やっぱり髪型が気になる。( ☆そりゃそうだろう )

――パンクの影響?

ジョン:(笑いながら)違うよ、気分的になんとなくさ。保守的な髪型だろ? パンクだったら紫に染めたり、まだらに染めたりするけどね。それに他のメンバーも短くしただろ?
    ☆キミほど短くはないだろ?

――ブライアンだけはそのままだ。

ジョン:彼は似合うからさ。短くしたら似合わないよ(笑)

――パンク、好きかい?

ジョン:僕とロジャーは興味持ってるよ。セックス・ピストルズなんてね。

――今後、どうなると思う?

ジョン:分かんないな。ただ、実際はマスコミが騒ぐほど活発じゃないよ。レコード売上げにしても、ヒット・チャートの占有率にしてもね。混沌としていて、他にもいろんなタイプの音楽があるんだ。
世界を見て廻れば良く分かるけど、ディスコがあればポピュラーもある。これは好きだけどあれは聞く気もしないとかいうんじゃなくて、色んなものを好きになっていいんじゃないの。これからも、色んなタイプの音楽が共存していくんじゃないかな。
また、日本には日本の言葉があるだろう?例えば今、英国ではレゲエが話題になってるけど、アメリカでは全くダメ。つまり、その国なりの必然性・特徴があるわけで、英国でも英国内だけの国外には出ない音楽があるわけさ。それでいいんじゃないかな。その国その国の音楽があっていいと思う。
    ☆こだわりのないジョンのグローバルな音楽論。やはり時代を先取りしている。

★コンサートの後は、部屋で家族と一緒に静かに過ごすのが好きだ

――じゃ、クイーンの場合、今後どのようなものを目指していくの?

ジョン:前作『世界に捧ぐ』は、やりたいことを全てやってしまったという感じで、新作『ジャズ』は、今までやってきた一番いい面だけを抜き出して集大成したという感じだな。

――というか、『ジャズ』はかなりノスタルジックな感じがしたよ。

ジョン:確かに、そのような感じがするかもしれないな。それは前作に対する反動もあったろうが、それよりも何よりも、4人の気持ちがちょうどそのようなノスタルジックな気分にあったんだ。それで、ああなったわけ。

――個人的には、デビュー当時の若さ溢れるエネルギーがどんどんなくなってきてるように思うんだけど。

ジョン:君の言う通りだ。最大の要因は、フレディがピアノに興味を持つようになり、ピアノをベースにして作る曲が多くなってきたからだろうな。すると必然的に、エネルギーをおさえた曲が多くなってくるんだ。昔の「ライアー」とか「キラー・クイーン」なんてのはギターで作った曲だから、当然、激しいギンギラのハード・ロックになるわけさ。( ☆おいおい、「キラー・クイーン」はギンギラのハード・ロックなんか? )それが今や、日本の家具装飾に囲まれて(笑)ピアノで作ってるんだ。結局、その時の気分だよね。ただ、ロジャーはドラムで曲を作ってるよ(大笑)

    どうもフレディに対してだけは、あまりいい感じを抱いてないようだ。何となく皮肉っぽい。( ☆というより発言がズレている。喧嘩でもしてたのか? )もっと悪くとれば、彼だけ他のメンバーから孤立しているようにも……。( ☆この「彼」って誰?フレディ?ジョン自身?どちらにもとれそうだ )

ジョン:『ジャズ』はスイスで録音したんだけど、知ってるようにあそこは美しい所でしょ。僕は家族を連れて行ったんだ。他のメンバーはどうか知らないけど、僕は凄くいいムードでできたな。英国以外で録音したのは初めてだったんだ。また、昔は24時間、4人一緒にずっとレコーディングに費やしてたけど、今はそれぞれ個人の生活というものがあるからね。だからスイスでも、各人がかなり離れた所に家を持って、レコーディングが終わったらそれぞれの家庭に戻り、そしてまた次の日は一緒に集まって続きをやるというやり方だ。自分達の個性を生かしながらのレコーディングだったので、そういう意味では新しい試みだったし、凄く新鮮で非常に楽しかった。
    ☆自分だけ幸せいっぱいだったから誰かの反感をかっていたのではないだろうか。

――君は愛妻家ということで有名だもんね。

ジョン:彼女はそう思ってないけどね(笑)今度、よく言っとくよ(笑)ただ、仕事のない時はいつも一緒にいるようにしている。それに、ヨーロッパとかアメリカ・ツアーの時は子供も一緒に連れて行くんだけど、日本の場合、8時間の時差もあるし、男の子2人の面倒をみるのも大変なので連れて来なかったんだ。

――お子さん、かなり大きくなったでしょ。

ジョン:(しばらく考えてから)上のロバートは3歳4ヶ月、下のマイケルが14ヶ月かな。
    ☆なに考え込んでるねん、と思ったら…言い方が細かすぎる。

――ミュージシャンの奥さんってのも大変だろうね。ツアーに出れば長く帰ってこないし、女性問題も多いし、離婚率が高いんだよね。あなたは上手にやってるけど、その秘訣は何?(笑)

ジョン:ハハハ、秘訣?あったら教えて欲しいよ。10年先はどうなるかわかんないけど…僕はコンサートで騒いだ後は、部屋で家族と一緒に静かに過ごすのが好きなんだ。フレディなんかだと凄く顔を知られてて、外を歩くだけで騒がれるけど、僕はそうでもないので普通の生活ができるよ。仕事と家庭はちゃんと分けてる。
(突然)そういえば、先日ロッドが結婚したけど、どれだけもつかなァ(笑)ロジャーなんか、あせってかなりショックを受けたんじゃないかな(笑)『スーパースターはブロンドがお好き』って、どの曲を聞いても昔の女のことばっかしじゃない。それなのに結婚しちゃうなんて、考えられないよ。みんなで言ってたんだ、どういう風になるのかナーってね。
    ☆けっこう下世話な奴だったりする。

――他の3人は、オフの時はどのように過ごしてるのかな。

ジョン:みんなバラバラなんで良くわかんないな。ロジャーは有望な独身男性なので、色々と楽しくやってるんじゃないの。あ、あとフレディもね(何となく付け加えた感じ…)(← ☆余計なお世話だと言いたい ロッドみたいな者でも結婚できるんだからねえ(笑) ☆ロッドの結婚がよほど気になっているらしく、しつこい。

    ブライアンは妻帯者だし、聞くところによれば彼もまた愛妻家で、オフは家で静かに過ごしているそうだ。図書館にもよく行くとか――。

★他のミュージシャンとセッションでソロ・アルバムを作りたいな

――長いこと一緒にやってると当然メンバー間にトラブルも生じてくると思うけど。

ジョン:グループを長く保つには、それぞれが平等でなければならない。例えば、フレディはステージでは一番目立つわけだけど、ステージ外では他のメンバーにもそれなりの役割というのがそれぞれあるわけだから、それらを平等に保てばいいわけさ。多くのグループが解散するのは、最初にあった問題が乗り越えられないからだ。我々も最初は色んなゴタゴタがあったけど、それを乗り越えられた。そういう意味では、もう大人というか、ちゃんと分かってるし、金銭的なこともしっかりセット・アップしてあるから、そういうもめ事もなくなったよ。まわりはしっかり固めてある。たださっきも言ったように、先の事なんて誰にも分からない。でも今は、非常に安定しているよ。
    ☆これから絶頂期を迎える彼の、自信に満ちた態度に圧倒される。

――もうそろそろ、ソロ・アルバムを作ってもいいんじゃないの?

ジョン:ロジャーだけはソロ・シングルを作ったけどね。この7月以降は珍しく3〜4ヶ月のオフがとれたんだ。こういう事は、ここ2〜3年なかったことだし、他の3人は作るかもしれない。僕は歌えないから、作れないのが残念だけど…。

――ステージでも、君だけソロがないね。

ジョン:性に合わないんだ。

――目立つのって、嫌い?

ジョン:いや、そういう気持ちはあるよ。ただ、それとは違った形で自分を目立たせたいんだ。

――具体的に、どういう事?

ジョン:今、グループがステージでやってるのは、多少、僕の好みと違ってるとこがある。僕は電子工学が大好きなんだ。だから、ベースでソロをとるという形でなくて、新しい機材を導入したりとか、そういう形で自分を生かしたい。ステージもいいけど、僕はやっぱりスタジオで音楽を作るのが好きなんだ。正直に言うと、他の3人とは全く違ったサウンドをスタジオで作り上げる気もあるんだ。
    ☆あまりの自負心に目眩を起こしそうである。

――独立しようとする気があるのかな。

ジョン:どういう意味だい?

――つまり、クイーンを離れて自分のバンドを作ろうとする気はないの?

ジョン:全くない。ただ、他のミュージシャンとセッションでやりたいという気はあるよ。

――ぜひ実現させてほしいな。
では時間もないので最後の質問…じゃなくて、後2つ位…。


ジョン:3?4?5? いいよいいよ(笑)

――日本公演後はどうするの?

ジョン:とにかく忙しすぎた。ここで一段落しなきゃね。今、79年のクイーンを生かしたライヴ・アルバムを作ってるんだ。だから、現在みんなが日本で聞いたサウンドになるわけ。

――日本公演は入らないの?

ジョン:入らない。春のヨーロッパ・ツアーが中心さ。その後は、本当に働きすぎたから、ゆっくりしたいよ。ロジャーとブライアンは、この後ハワイに行くと言ってるし、フレディは香港に行って、その後ニューヨークに住むようになるんじゃないかな。僕は嫌だから、しっかりとすぐ家に帰る(笑)

――最後に、メッセージを。

ジョン:僕は、あまりうまい事言えないし、オーバーにカッコいい事も言えないので、苦手なんだけど…とにかく、我々はとても楽しみにして来たし、昔と変わらずみんなに愛されている事が分かって、とても嬉しかった。いつまでも、みんなの事は忘れないよ。

ジョン・ディーコン――ひとことで言うなら、”縁の下の力持ち”ってとこだろう。終始、穏やかで優しい。サイン色紙にペンを走らせてる時、フッと「凄くまともって感じだなァ」ってもらしたら、その手を休めずに「個性が強く騒がしい連中ばっかしだからね。中に一人位、落ち着いたのがいてもいいんじゃないの。もし僕がいなかったら、このグループはまとまらないだろうな。僕がいつもまとめ役さ」と言ったジョン。下を向いているので表情は読み取れなかったが、一番強烈だった。
    ☆穏やかな優しい笑顔で人を悶えさせる男の本領発揮といったところか。

そして最後は、この一言で笑いの渦。「2年後には、髪をビンビン立てて、ギンギラの恰好で来るかもしれないよ」
    ☆ちょっと見てみたかったような気もする。

インタビュアーの思い込みのようなものが少し入りすぎているのが気になるものの、ジョンのこれほどまでの頼もしい発言を拝めるのはこの時だけなので、貴重である。数年後「ジャズは一番嫌いなアルバムだ」とコメントすることになる彼はまだ、挫折を知らない。


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