VIVA ROCK 82年12月号
QUEEN ALL OVER AMERICA
あまりにも忙しい10年間だった……日本公演が終わったら、
長い、長い休暇をとるよ
(Interviewed : Kumiko Mizuno)
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クイーンの最新アルバム『ホット・スペース』には、賛否両論が集まったけど、総じて、ここアメリカでの評判は芳しくなかった。特にジャーナリストの間では、かなりの酷評も見られた。
音楽ファンの間での評も似たようなもので、今回のアルバムのセールスにも、それは確実に影響している。
しかしながら、2万人以上を収容する『ロサンゼルス・フォーラム』でのコンサートは、ソールド・アウトにはならなかったものの、9月17・18日の2回ともほぼ満員。この直前に『フォーラム』から車で1時間位の所でも2回大きなコンサートを行ったことを考えると、やはり彼らの人気は、いまだ衰えずというところである。
さて、その『フォーラム』でのステージは、以前と変わらず、華麗でパワフルで、サウンド的にも、ショーとしても、クイーンの健在ぶりを、見事に証明してくれた!!
『フォーラム』の楽屋でジョン・ディーコンに会ったのは、初日のステージの前だった。
グループ中の最年少とはいうものの、もう31歳。もちろん、デビュー当時の子供っぽさ少年らしさはすっかりなくなり、その分、大人の魅力を増し、とても感じのよい、良い意味で、年輪を重ねた一人の紳士になっていた。(☆しかしながら2年後のアフロではこうは書けまい。)
デビューして10年、常にトップに君臨する者としての自信と余裕が、こういう穏やかな顔立ちをつくりあげたのだろうか。
楽屋には、私達2人の他に、『NBC』の人気番組も取材に来ている。私達のインタビュー風景を撮影したいとのこと。
外ではちょうど、ビリー・スクワイアのステージが始まったところで、楽屋の中にまで音が入ってくる。私のカセット・デッキに自分の声が入っていないと大変だからと、ジョンは、インタビューの間中、ずっと私のカセットを持っていてくれたのである。
「テレビに映るのにあなたがカセット・デッキを持っていたら、おかしくない?」と私がたずねると、「かまわないよ。キミが後でテープを聴いて、ボクの言っていることがわからなかったら大変だもん。こんな音の中だと、ボクだってテープの会話なんて聴き取れないよ」だって。優しい(ハート)(☆後で自分の言葉を曲解されるのが嫌だったのかもしれないが)
まず最初に質問したかったのは、やはり今度のアルバムについてだ。特にこの数日前、ロジャー・テイラーが、『ロサンゼルス・タイムス』のインタビューに応えて、「あのアルバムには、ジョンとフレディーのR&Bの趣味が大きく取り入れられている。ボク自身は余り気に入ってないな」と発言しているので、そこら辺の、グループ内の意見の食い違いというようなことも聞きたかった。
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――このアルバムには、あなたとフレディの意見が強く反映していると聞いているけど。
ジョン:そんなことはないよ。ボクは2曲しか書いてないし。フレディの書いたものはモチロン、彼の音だしね。
☆彼の音だから自分の意見が反映してるわけじゃない、と言いたかったのか?
――今回のアルバムはR&B色が濃いし、それはあなた方ふたりの好む音楽だとも聞いてるけれど?
ジョン:確かに、他の2人よりボクたちの方がR&Bがが好きとは言えるよ。ただ、この傾向は『ゲーム』の中の「アナザーワン・バイ・ザ・ダスト」からすでに表れているよね。
――そうね。アルバムが出来上がった時には、全員納得して、満足のいくものだったでしょうけれど、発表以来、かなりヒドい評判を耳にしてみて、今はどう思う?
(ロジャーは、「このアルバムの完成した時から気に入らなかった」と、『L.A.タイムス』で発言しているし、責任はジョンとフレディにあるようなことも言っているので、ここら辺意見の食い違いがあると、今後のグループの存在にも関わってくると思い、色々と、聞きにくいことも質問してみた。彼は、イヤな顔ひとつせず、かなり率直に、この問題について語ってくれた。)
ジョン:個人的には、全く気に入っていない作品なんだ。
――それなのにどうして発表したの?
ジョン:(だいぶ、言葉につまって、「エ……ア……」という音が続いた後、ついに意を決した様子で)グループとしてのアルバムだし、グループとして製作したのだし、エー…それに、ボクがどう思っているかは、特に他のメンバーには言わなかったから…。
☆グループとして作ったのに、名指しで責任を押付けるなんてヒドイよという気持ちが見え隠れしているような気がするが…まだこの頃は、音に関しては発言権が低かったのか?
――ロジャーも「気に入ってない」と発言しているから、メンバーの半分は気に入らなかったことになるわね。
ジョン:ブライアンも気に入っていなかったんだ(と、大胆な発言!)
☆この発言で多数派に回ってしまった事勿れ主義のジョンだった(^^;)
――(絶句…気を取り直して)そうすると、次回作は全く違ったものになりそう?
ジョン:そうだね。けれども、毎回、素晴らしいものをつくるというのは、とても困難なことだ。ボクたちはもう10年も一緒にやっているし、その間、ずっと忙しかった。ツアーとアルバム製作が交互にやってきて、休むヒマもなかったからね。結婚と同じだよ。長い間一緒にいれば、意見の食い違い、衝突なんて、どうしても避けられないんだ。(さすが、実感の伴った発言!!)(☆インタビュアーに先に突っ込まれたのでノーコメント)
でも、一緒にいて、音楽を創り出すことが苦痛にならない限り、クイーンは存在する。今、ボクたちに必要なのは、長い休暇なんだ。しばらく自分自身に戻って気分をフレッシュにして、また集まればいいんだ。そりゃ10年もやっていれば、グッド・タイムもバッド・タイムもあるさ。
――今はどう?色々、アルバムに対して批判が集中していて。(☆このインタビュアー、かなり食い下がる)
ジョン:ボクたちは、他人の意見に耳を傾けるつもりは充分あるし、それがどういったものであるかもわかっているよ。今のボクに言えることは、次の作品にベストをつくし、それがどういう結果をもたらすかということをボクたちも知りたいし、みんなにも知ってもらいたい、ということだ。
☆インタビュアーが期待していたであろう、「今」を否定する言葉を直接口にしなかった彼はえらいと思う。分かったようで分からない、かなり賢い答ではないだろうか。
――何かすでにアイデアはあるの?
ジョン:全然ないね。この後、10月、11月と日本へ行った後は、何のプランもない。全くの白紙状態なんだ。さっきも言ったように、余りにも忙しい10年だったから、日本から戻ったら、多分9ヵ月くらいかな、長い、長い休暇をとるつもりだよ……。
☆ひとつ前のような深い発言も、この力の抜けるような正直な発言も、どちらもホンネなところが彼らしい。
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★西武球場での公演を前に緊張しているメンバー
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――デヴィッド・ボウイとの共演は、どのようにして実現したの?
ジョン:ロジャーとフレディが、デヴィッドと長い間の知り合いだったらしいよ。(☆知り合いだったのはジョンで、彼が段取りを整えたという説がこれで吹き飛んだ)ロジャーは、ミュージシャンとしてのデヴィッドをとても尊敬しているし、同じ時期に同じ場所でレコーディングしていて、ジャム・セッションをやったんだ。それから、一緒にやってみようということになったのさ。
あの曲そのものは、主にデヴィッドとフレディのアイデアなんだ。全員がクレジットされてはいるけどね。興味ある経験だったと思うよ。ボクは、デヴィッドの言う通りにベースを弾いて、まるでセッション・マンみたいだったナ。彼が全責任を負ったというわけ。でも面白かったし、彼は実に才能豊かな男だね。あの曲はボクの一番好きな曲の一つだよ。
☆セッション・マンのように扱われてつむじを曲げた人もいたようだが。
――日本公演は、今回、屋外で行われるけれど。
ジョン:そうなんだ。初めてのことなんだ。うまくいけばいいと願ってはいるけど、これに関しては、ちょっと緊張しているんだ。天候、サウンド、その他色々ね。ずっと『ブドーカン』(☆またしてもカナ表記。よほどオモロイ発音だったのか)でやっていたから、どこか違う場所でやりたいと思ってこうしたんだけど、心配だね。良い音を野外でつくるのは大変だし、P.A.もとても大きいものを用意するつもりさ。うまくいくことを願っているよ。
――今回、シンセサイザーを多用しているね。
ジョン:ボクらは誰も、シンセサイザーを特にうまく弾けるわけじゃないんだ。でも、長い間、少しずつ使っていて、随分慣れて来たよ。だから、何か、今までと違った味付けをしたい時には、いいものだと思うんだ。
――随分、いろんな楽器がコンピューター化されつつあるでしょ。コンピューター・ドラムスとか。
ジョン:(ため息をついて)あー、本当にたくさん。
☆この溜息は、単にインタビューに飽きて来たからだったりして。
――音楽から、人間らしさ、感情というものが失われるような気はしない?
ジョン:ウン、そう思う。(☆後の発言をみると、「適当に相づちうちました状態」と思われる)でも、たくさんのヒット曲が、今、そういう傾向になっているよね。ヒューマン・リーグの「愛の残り火」なんて、とっても好きだよ。確かに、人間味のあるサウンドではない部分もあるけど、ほとんどの人々は、それに気づかないんだ。歌詞やメロディーに気をとられているからね。
失うものもたくさんあると思うけど、こういう新しい楽器にあるサウンドがたくさんできていることも事実だよね。ボクは、新しいサウンドも楽しんでいるし、有望な新人がたくさんでてきているのも嬉しいことさ。
とにかく『セイブキュージョー』でホームランをカッ飛ばすヨ!
アイドル雑誌ながら、ズバズバと突っ込んでいるインタビューである。うまい言葉でごまかすのがニガテなジョンとしてはかなり苦しかったのではないだろうか。それでも一生懸命、自分に正直でいながらも、質問の矛先をさらりとかわしているような発言があって、奥が深い。アルバムについては他人に言えないような思いも色々あるに違いないのだが、「いやなことがあっても、いいことを考えて笑うように心がけている」彼の、楽天的な処世術も垣間見られて、私は好きだ。